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「色彩から知覚へ 」三木学

www.tobikan.jp

先日まで大阪、東京を巡回した新印象派の展覧会が開催されていた。近年、過渡期的な表現とされた新印象派の評価が上がっている。彼らが19世紀の色彩科学的な知見と最先端の色材を最大限利用して行った実験的な表現が、20世紀の絵画に及ぼした影響は大きい。

スーラやシニャックなどの新印象派の画法は、小さな点描を積み重ねた並置混色といわれる。併置混色は、ドットの集積によって視覚の中で新たな色を作る。視覚混合ともいう。

混色には色光を加算すると明るくなる加法混色と、色材を加算すると暗くなる減法混色がある。加法混色には同時加法混色の他に回転させて混色させる回転混色とドットを併置させる併置混色などがあり、加算した色の明度が平均になるため中間混色といわれる。

視覚混合を起こすためには相当ドットが小さい必要がある。同じ原理であるテレビや印刷のドットは相当拡大しないと点が見えない。スーラはかなり小さい点描であるが、ダ・ヴィンチスフマートほどではない。彼らが観客が見る距離をどの程度に想定していたのが問題だ。ある程度離れて、ドットが見えない状態にならないと視覚混合は起こらないからだ。

おそらく、スーラやシニャックは、ドットをある程度認識させ、同時対比によって色彩が輝く知覚現象に力点を置ていたのだろう。同時対比とは、印象派、新印象派、ポスト印象派の画家が大きな影響を受けた化学者、色彩学者、シュブルールが発見した理論で、隣り合う色によって知覚的な干渉を起こすことである。特に色相環の反対色である補色を並べると、対比現象が起こり、チカチカと画面に輝きが増す。
本当に視覚混合だけを起こさせたかったのだったら、もっと小さな点描で描いていたはずだし、小さな画面でも良かっただろう。だから、色の輝きをもっとも重視していたのだと思う。

その後、スーラやシニャックなどの科学的印象主義は、赤みのある南仏の強い光によって、点描は大きくなり、感情的になり、皮肉なことにまったく対極のフォーヴィスムへの橋渡しをすることになった。被写体と色は分離され、形から色が解放される。そして新たな色彩革命へと移行していく。

印象派は、点描による併置混色と補色などの色彩の同時対比を組み合わせた技法であるが、突き詰めると色彩の錯覚、錯視を応用したものである。彼らの試みは、科学的ではない真反対のフォーヴィスムへの流れを作ることになったが、その後、ヴァザルリやライリーなどのオプアートへと引き継がれていくことになる。
印象派は、フォーヴィスムへの橋渡しだけではなく、オプアートの原点だったともいえる。

 参考文献

「新印象派 -光と色のドラマ-」公式図録

「新印象派 -光と色のドラマ-」公式図録

 

 

徹底図解 色のしくみ―初期の光学理論から色彩心理学・民族の色彩まで (カラー版徹底図解)

徹底図解 色のしくみ―初期の光学理論から色彩心理学・民族の色彩まで (カラー版徹底図解)