「色名と関係性の記憶」三木学
(C)Chihiro Minato
「フランスの色景」では、写真からフランスの伝統色名と日本の伝統色名を抽出し、比較分析している。フランスの伝統色名は食べ物、飲み物の色名など固有物と直接性があるものが多いが、日本の伝統色名は染料由来の色名が多く、現在ではほとんど見られないため連想するのが難しい。
フランスの伝統色名を翻訳したら、そちらの方がはるかに連想しやすいだろう。日本の伝統色名は、色彩感覚としてかすかに残ってはいるが、そこから繋がる天然染料や顔料、四季などの豊穣な文化とすっかり切れてしまっている。
日本の伝統色名は、天然染料や顔料、四季と配色を合わせる文化を含む体系だが、それを取り戻すのは難しい。産地や染めるための川、気候、織りの肌触りなど身体感覚と深く結びついているため色彩の本を読むだけでは理解できない。
そのような絶望的に取り戻せない深い色彩体系が、色名を比較することではっきり浮かんでくる。おそらく、日本にとって色とは、西洋よりもはるかに身体性を伴うものだろうと思う。木や紙など、自然を加工した建築に住むように、色もまた自然から抽出した染料や顔料による衣服や絵画などとして触れてきた。自然との直接的な関係性があるからこそ、色名は染料や顔料の名前で連想することができたのだ。
自然との直接的な関係がなくなったら、染料や顔料由来の名前ではさっぱり連想ができない。全く通じず共有できないものになっている。抽象的な概念としての色名になってしまい、日本にわずかに残る色彩感覚の名残りとして感じられるだけである。
おそらく、身体的な記憶を伴なう色名であれば、視覚野の色を感じる視覚前野(V4)、下側頭皮質(IT)に加えて、記憶を司る海馬も強く反応するだろう。おそらく、日本の伝統色名の本をいくら読んだとしても、そのような反応は見られないだろう。
フランスの伝統色名
日本の慣用色名
参考文献