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ビジュアルレビューマガジン

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「新婚旅行の写真で訪ねる日本」三木学

アート 写真

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最近、写真集では「ファウンド・フォト」という手法が流行しているという記事が掲載されていた。すでにある写真を編集して、文脈を付加した作品集ということになるだろうか?それらの写真は自分が撮影したものはないが、あるコンセプトを元に並べることで、新たな価値が生まれる。あるいは価値の転換が生まれるといった方が正しいだろうか?

 

「ファウンド・フォト」の潮流は以前からあったものではあるだろうと思う。リヒターの膨大な創作資料ともいえる、ゲルハルト・リヒターの『アトラス』、鷲のアイコンを集めたマルセル・ブロータスの『現代鷲美術館 』、滝の絵葉書を集めた横尾忠則の『滝狂』なども、「ファウンド・フォト」の先駆例ともいえるかもしれない。他にも面白い試みの作品集があるのだが、引っ越したときに整理してしまったのでアーティスト名を失念してしまった。

 

要するに、膨大なアーカイブを再編することが新しい価値を生み出すということが認知されてきたということだろう。個人的にも、観光ペナントを収集した展覧会や本に参加したり、旅行雑誌で絵葉書を含めて、他人が撮影した写真を集めて旅の記事を5年ほど連載で書いていたので、自分にとってはとても親しみのある分野である。

 

その中でも、もっとも受けたのは、新婚旅行の写真を集めた記事だった。狙いとしてはちょうど宇宙飛行士が宇宙で結婚式を挙げるというニュースがあったので、新婚旅行も宇宙に行く時代がくると思い、国内、海外、宇宙へと拡張していく新婚旅行を想定し、親子二世代の新婚旅行を集めて記事を作成したのだった。

 

それで気付いたのだが、1960年代の新婚旅行は国内でモノクロ写真、1970年代以降は海外でカラー写真が多いということだった。特に惹かれたのは国内のモノクロ写真で両方スーツを着ていて、見合いも多かったためか、二人の緊張感が画面からピリピリ伝わってくるということだった。もしかしたら、初夜という言葉があったくらいなので、肉体的な関係にもまだ及んでない可能性すらある。そして、それらの写真はだいたい部屋の奥深くにしまわれていて、家族の歴史の起源が隠されているのも印象的だった。

 

それが子の世代の80年代~90年年代になると、海外旅行になりすっかりカジュアルな格好で、二人の緊張感もなくなってしまっている。それくらい世代の差が新婚旅行の写真に現われる。場所、写真のメディウム、服装、そして二人の関係自体が変わっているのだ。これが宇宙になったらデジタルになり、宇宙服になり、ということになるのだろうが、二人の関係がどうなるかはわからない。

 

その時、書いた記事を転載しよう。

愛の旅路はどこまでも遠く・・・ 国内・海外・宇宙
2003年8月10日、国際宇宙ステーションにいるロシア人宇宙飛行士と、アメリカ在住のロシア系アメリカ人女性による衛星中継を利用した結婚式が行われ話題になったが、ついにロシア航空宇宙局では一般客のハネムーン募集を開始し、新婚旅行が宇宙時代を迎えることになりそうだ。
“結婚”と聞いて思い浮かぶのはなんと言っても結婚式と新婚旅行。この二つは切っても切れない関係にあり、人生における一大行事としてしっかり組み込まれている。そして新婚旅行は、日本人にとって修学旅行と並ぶ人生の二大旅行の一つでもある。
日本人が、幾多の旅行の中でも、ことのほか新婚旅行に思い入れを持つのはなぜだろうか?それが結婚に欠かせない儀式だからなのか?あるいは“結婚”と“旅行”にどこか重なるイメージがあるからなのか?
昔の常識からすると、どこか後ろめたい“できちゃった婚”も当たり前になり、最近では新婚旅行にさほど必然性がなくなってきたのかもしれない。もはや結婚式当日の晩から旅立つような、典型的な新婚旅行に出かける夫婦は少ない。
かつて新婚旅行には、2人で初めて宿泊の伴う遠出をする、という行程の中に、“初夜”というさらに重要な儀式があった。それは独身から結婚、出産へと続く、人生という旅路の折り返し地点のようなものだった。“初夜”によって生まれた子供はハネムーンベビーとも言われ、新婚旅行と出産が直接的な関係にあったことを伺わせる。
そして成り立ての夫婦は、最大限の遠出で一生に一度の大旅行をし、そこからは家庭を築き、家に収まっていく決意をしていた。しかし現在では、子供のうちから家族で海外旅行へ行くことも当たり前になり、新婚旅行が一生で一番遠出の旅行ではなくなったこともその魅力が薄れた原因かもしれない。
しかし、確実に新婚旅行が美しかった時代はあった。戦後、日本が豊かになることで到来した新婚旅行ブームにより、結婚式で神や仏に愛を誓った後、二人自身が愛を確かめるための儀式として欠かせないものになった。夫婦の幸せな気分は、暖かな陽光を求め、こぞって伊豆や南紀、宮崎、そして、南方の島々に出かけた。重要な儀式であるからこそ、二人は一張羅のスーツを身にまとう。その子供たちは、両親の後を追うように新婚旅行に出かけた。しかし向かう先はもはや国内ではない。定番のハワイやオーストラリアを中心に、世界各地に行くことが当たり前となった。もうそこには一張羅の夫婦の姿はなく、カジュアルな普段着姿のカップルたちばかり。
ハネムーンを直訳すると蜜(ハニー)・月(ムーン)になるが、男女の出会いはハネムーンで満ち足りた蜜月状態を迎え、少しずつ欠けていきながら、新たな人生の旅路を歩んでいく。もしかすると、最近のハネムーンベビーが大人になった時には、新婚旅行に本当の月へ行くかもしれない。その時の二人は、もちろん宇宙服を着ているに違いないが…。
そしてなんと言っても、新婚旅行にはいつの時代も記念写真がつきもの。人生の中でもっとも甘い瞬間は永遠に残しておきたい。それはモノクロからカラー、そしてデジタルに変わったとしても廃れることはないだろう。ただし、それらの写真はその後、家庭生活を営む夫婦にはほとんど省みられることはない。子供たちは自分の生まれる前の“男”と“女”の両親に、居心地の悪い感覚を覚え記憶から消している。ましてや他人に見せることはない。つまりそれは、家族だけの伏せられた歴史なのだ。
それ故に、新婚旅行の記念写真はいっそうセンチメンタルなものになる。二世代の新婚旅行の記念写真でセンチメンタルな思い出の旅に出よう。
(ぺーパースカイ no.9 より)

 

これこそ、本当にもう一つの戦後史、写真史として収集し、一冊の本にする価値はあると思う。やろう、やろうと言いながら、できてないプロジェクトの一つなので、また皆さんの協力を仰いでまとめることができればと願っている。

 

参考文献

Paper sky (No.9)

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ゲルハルト・リヒター《アトラス》

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