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「絵画の色と写真の色」三木学

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(C)Chihiro Minato

写真と絵画という視覚表現は、異なるところはたくさんあるが、描写する時間の問題は大きいだろう。絵画は対象を時間をかけて描く(対象が抽象の場合もあるが)。時間をかけて描くほど、色刺激によって知覚が変容してしまう。初期の印象は、時間をかけている間に変わってしまうのだ。

 

また、色の知覚には恒常性があるので、変わっていくものではなく、変わらない色を認識しようとする。光によって瞬間瞬間によって変わる対象の色を無意識的に無視して、普遍的な色を認識するのだ。

 

つまり、絵画は長時間の色刺激による知覚の変容と、変化する対象の色を無視しようとする「色の恒常性」の二つの軋轢の中で生まれている。したがって、瞬間を描くことが絵画にとっては一番難しいことなのである。脳にとっては一番難しいと言ってもよい。

 

写真はまったく別である。瞬間を留める際に、知覚の変容や「色の恒常性」に影響は受けない。しかし、その瞬間において、空間における色彩の関係をどの程度理知覚しているのか。脳がどのような働きをしているのか。これには謎が多い。しかしながら、「フランスの色景」において、港千尋が撮影する写真の配色はかなり計算されているようにも思える。写真家が後天的な訓練によって、瞬間的な配色を知覚できるようになるのか興味深い例を示している。

 

また、写真は撮ることと、見ることが分かれている。写真を撮るときに、撮られた写真の内容をすべて把握していることはない。自分の瞬間的な判断は、写真をモニターで確認したり、現像した後に見たときにはじめて理解できるのである。その二段階の知覚も、絵画とは異なるところである。

 

しかし、写真は記憶色(人間の記憶によって色が強調される現象)に合わせて各メーカーが撮影時に画像処理エンジンによって補正している。また、その色でさえも写真家の記憶色と異なると感じることもあるだろう。だから、決して写真が瞬間を忠実に色再現しているわけではないし、写真と色の記憶がぴったり合うということもないということは覚えておかなければならない。

 

その上で、絵画と写真は、脳の働きにおいて決定的に違うところがたくさんある。それがどのように違うのか。二つの表現において、色彩がどのように影響を及ぼしているのか。シュブルールが指摘した、色の同時対比や同化は写真を撮る段階において、見る段階においてどのような影響を与えているのか。これを解くにはまだまだ時間がかかる。

 

参考文献

 

フランスの色景 -写真と色彩を巡る旅

フランスの色景 -写真と色彩を巡る旅

 

 

シュブルール 色彩の調和と配色のすべて

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脳は美をいかに感じるか―ピカソやモネが見た世界

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色の錯覚―同化による視覚効果

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