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ビジュアルレビューマガジン

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「ULTRA×ANTEROOM exhibition2015」三木学

hotel-anteroom.com

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ヤノベケンジ《トらやん》2004,名和晃平《Sweel-Tiger》2010

 

近年、ホテルも様々な形態が出てきているが、2011年に開業し、今年4年目になるホテルアンテルーム京都はそのなかでもユニークな試みで注目されてきた。「“anteroom”とは、「次の間」や「待合室」のことを意味します」とホテルのHPには記載されており、世界中から京都に訪れる人々が集う待合室のような空間を目指して作られた。

 

なかでも、特筆すべき点は、ホテルとアパートの両方の機能を持っていることだろう。実際の待合室にはカフェがあり、外国人旅行者や住人の両方が集う場となっている。そこで様々な交流があるかもしれない。

 

さらに、エントランス部分には、GALLERY9.5という展覧会場があり様々な企画展やライブが開催されている。また、現代美術家の名和晃平の作品が展示されており、名和晃平の主宰する工房「SANDWICH」との共同プロジェクトも進行している。

 

GALLERY9.5というのは、アンテルーム京都がちょうど京都の九条と十条の間にあることから名付けられた。アメリカ近代写真の父、スティーグリッツがニューヨーク5番街291に、現代美術を積極的に紹介するギャラリー291を開廊したことはよく知られているが、GALLERY9.5もそれに倣ったものだろう。スティーグリッツ以降、ギャラリー名に住所をつけることは定番のようになっているが、日本ではニューヨークと同様に、碁盤の目の都市である京都が一番適しているかもしれない。

 

また、アンテルームは、玄関ホールや入口の間という意味合いもある。ちょうど平安京の朱雀大路南端にあった正門、羅城門は九条あたりにあったので相応しい名前といえる。そして、アンテルーム京都は、新旧のアートやカルチャーをテーマにし、宿泊と滞在、日常と非日常を併せ持つコンセプトが明解であり、地域を活性化する意味でも重要な位置づけにある。

 

今、開催されている、「ULTRA×ANTEROOM exhibition2015」は昨年に引き続き第二回目となる。ULTRAの冠がついている意味は、京都造形芸術大学ウルトラファクトリーが共催となっており、ウルトラファクトリーに縁のある作家、総勢18名が集った展覧会である。同時に、ウルトラファクトリーや作家たちが常にジャンルを越境的に表現している姿勢とも無関係ではない。

 

今回は、ディレクターで現代美術家のヤノベケンジをはじめ、ウルトラファクトリーでウルトラプロジェクトを実施している名和晃平、やなぎみわ、石橋義正などのビックネームに加え、昨年、プロジェクトを行った明和電機も特別出品している。ウルトラプロジェクトとは、学内の共通工房であるウルトラファクトリーが実施している実践型演習であり、実際の国際展や芸術祭、プロダクトや舞台芸術など、世界的なクリエイターの仕事に参加することで実践的な教育効果を上げている。この手の試みはクリエイターがよっぽどモチベーションが高くないと良い効果を生まないが、2008年の設立以降毎年継続しており、社会的な評価も高いといえる。その理由として、ヤノベ、やなぎ、石橋、名和などの常連のプロジェクトディレクターは、毎年開催されている、国内外の芸術祭に引っ張りだこで見ない日はないくらいだからだ。力のある作品を創りつづけられる裏には、そのような背景がある。

 

ちょうど展覧会期間は、京都初の国際芸術祭パラソフィアが開催されており、やなぎと石橋も出品作家として招聘されている。やなぎは、台湾で特注した移動舞台車をオープニングで二条城の前で披露し、ポールダンサーが踊って芸術祭のオープニングを華々しく賑わした。

 

やなぎが、本展で展示したのは、移動舞台車を装飾している翼の下絵であり、1点物の貴重な作品だった。なぜ翼かというのは、移動舞台車が中上健次の『日輪の翼』を開催するための舞台だからである。近年、やなぎは本格的に舞台芸術の脚本、演出、美術をプロデュースしており高い評価を受けている。

 

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平松実紗《日ぐれ》2015

また、ウルトラアワードという、学生向けのアートコンペティションで受賞した作家たちの作品も展示されており、若い世代も着実に育てていることがわかる。若手作家たちのクオリティは総じて高く、個々が展覧会をやっても成り立つだろう。フォームも、絵画、彫刻、映像など多岐にわたる。個々が先生に縛られず、自分たちの表現を模索している証拠だろう。

 

とはいえ、最初から若手作家に技能があるわけではなく、様々な専門的な工作機がある工房でプロジェクトに参加したり作品を創れるように、テクニカルスタッフが常駐している。彼らもまた中堅のアーティストであり、高度な技能による作品を展示していた。

 

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明和電機《ナポレオン銃》2015

オープニングは、明和電機の《ナポレオン銃》という、シャンパンの銘酒「ナポレオン」を抜いて、シャンパンファイトをするための銃型装置で飾られた。会場に来ていた美人の女性に《ナポレオン銃》で土佐信道さんがシャンパンをグラスについでもらう予定であったが、当日まで製作していた作品が壊れ、途中でお客さんにかかってしまうお約束のような出来事もあった。しかし、その後、修復したので土佐さんの顔にかけつつ、残ったシャンパンをグラスに入れるパフォーマンスが行われた。つめかけたお客さんは総じて満足していただろう。

 

今回は、特別宿泊プランとして、明和電機とヤノベケンジの作品が展示された特別ルームにも宿泊できるようになっており、早い段階で予約が埋まったそうだ。アートフェアがホテルで開催されることも多いように、ホテルとアートの相性はいいことは証明されている。

 

ウルトラファクトリーを中心として、様々なアーティストが集う様子は、さながら一つの流派にみえる。今年は琳派400周年記念として、様々な展覧会が京都の内外で開催されているが、ウルトラファクトリーも後年、その越境的な作風はウルトラ派として呼称されるかもしれない。円山派の円山応挙や四条派の呉春と、同時期に京都に過ごしていた、伊藤若冲や曾我蕭白が今日、「奇想派」と呼ばれているように、芸術大学が集積している京都には、相互に影響を受けながら、奇抜な作風を受け入れ流行する土壌がある。

 

アンテルーム京都のようなホテルがあるのもその土壌の一つだろう。ホテルやアートの形態を逸脱するさらなる挑戦を期待したい。

 

参考文献

ヤノベケンジ ULTRA

ヤノベケンジ ULTRA

 

 

KOHEI NAWA | SANDWICH: CREATIVE PLATFORM FOR CONTEMPORARY ART

KOHEI NAWA | SANDWICH: CREATIVE PLATFORM FOR CONTEMPORARY ART

 

 

 

美術手帖 2011年 08月号 [雑誌]

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