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「Open Storage 2014-見せる収蔵庫-」三木学

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Open Storage 2014-見せる収蔵庫- 開催(11/8~24) | おおさか創造千島財団

先日、名村造船所跡地が、クリエイティブセンター大阪(CCO)として、木津川河口沿いにある北加賀屋大阪市住之江区)の創造活動の拠点になっていった歴史について書いた。2009年には北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ(KCV)構想を提唱し、おおさか創造千島財団は、北加賀屋エリア一帯のクリエイティブ活動を支援している。

 

木津川沿いの造船所施設は減少してしまったが、以前として巨大な工場及び倉庫群がある。その跡地を利用して、巨大化する現代アートの作品を保管する場所に転用する試みが検討されてきた。そして、2012年には、約1,000㎡の工場・倉庫跡地を利用して、大型アート作品の保管場所を無償で提供し、同時に展示する「MASK (MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)」の構想が始動した。

 

特に巨大作品を創ること知られるヤノベケンジは、2013年にあいちトリエンナーレ2013に出品された《太陽の教会》の制作の一部を行っている。また、東日本大震災後に制作された、3体の《サン・チャイルド》(2011)の内の2体もMASKで保管されており、あいちトリエンナーレ2013に展示されるとともに、メインビジュアルイメージとして、ポスターや広報に採用された。

 

同じく2013年に瀬戸内国際芸術祭2013で、小豆島の坂手港の灯台跡に設置され、会期中に作品周辺でさまざまなイベントが開催された《スター・アンガー》もMASKで保管されていた。瀬戸内国際芸術祭において《スター・アンガー》は、日中は小豆島の強い太陽光に照らされ、夜間もライトアップされることで光を放射しており、まさに灯台のような役割を果たしていた。会期後も、小豆島に恒久設置され現在ではパブリック・モニュメントになっている。そもそも、《スター・アンガー》は、2012年にNAMURA ART MEETINGの依頼で制作された巨大ミラーボールの作品であったという経緯があり、名村が生んだ作品といっても過言ではない。

 

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さらに、やなぎみわ台湾製の《『日輪の翼』上演のための移動舞台車》(2014)は、横浜トリエンナーレ2014で展示された後、MASKで保管されていた。その後、現在開催中の京都初の本格的な国際芸術祭「PARASOPHIA」でもMASKから京都まで運ばれ、二条城前のオープニングイベントにおいて、ポールダンスパフォーマンスが行われた。

 

昨年末、MASKは本格始動として、収蔵していた作品を一般公開する「Open Storage 2014-見せる収蔵庫-」展を、11月8日~24日の各週末開催した。NAMURA ART MEETINGの実行委員でもある木ノ下智恵子がキュレーションを担当し、‟蓋を開けてみれば“ヤノベ、やなぎに加え、宇治野宗輝金氏徹平、久保田弘成といったいずれ劣らぬ巨大でパワフルな作品を創り続けている作家による豪華な展覧会であった。各作家の経歴も申し分ない。

 

オープニングは、ヤノベケンジの代表作全長7.2mの《ジャイアント・トらやん》(2005)、《ラッキードラゴン》(2009)のファイアーパフォーマンスや、やなぎみわの『日輪の翼』上演のための移動舞台車》(2014)でのポールダンスパフォーマンス、久保田弘成の《大阪廻船》(2013)の廻船パフォーマンスなど、国際芸術祭のオープニングを一堂に集めたようなド派手な演出で、収蔵作品の底力をいかんなく発揮したといえる。また、あいちトリエンナーレ2013でサミュエル・ベケット《しあわせな日々》の舞台美術を担当した金氏徹平は会期中に滞在制作を行った。

 

日本においても、芸術祭が毎年のように全国各地で開かれるようになり、美術館外での屋外展示も多いため、このような大型アート作品の潜在的なニーズは増えているといえる。一方で、大型アート作品を創れる作家は、日本でも少なくなってきている。それは日本の制作環境の貧しさとともに、保管場所の少なさやコストとも無縁ではない。屋外で1~2ヶ月間は開催される会期中、鑑賞に耐えうる作品の物理的、内容的な強度を持つためにはかなりの力量が必要であるばかりではなく、それを支える制作環境・保管環境が十分じゃないと継続はできない。

 

その意味で、重工業時代の遺産(実際、名村造船所跡地は近代化産業遺産に認定されてる)としての北加賀屋のインフラは、現代のアートを支える機構として奇跡的にマッチしたともいえる。巨大倉庫をアートの展示場や収蔵施設にする動きは、海外には散見されるが日本においては、MASKが本格的な場所として初だといえるだろう。

 

この動きは、制作環境の問題で、映像作品やIT技術を駆使した非物質的な作品が増えたり、全体的にシュリンクしつつある日本のアート作品に一石を投じる機会になるはずである。オフ・ミュージアムで芸術祭を開催した場合、どうしても物理的な強度は不可欠であるからだ。

 

また、ジュール・ヴェルヌの生誕地としても知られ、貿易港として栄えたフランス・ナントの《ラ・マシン》のように、街全体を変えるポテンシャルもあるだろう。《ラ・マシン》は世界中で公演を行っており、2009年には横浜赤レンガ倉庫でもパフォーマンスが行われている。MASKは、《ラ・マシン》やUSJとは違う形で地域を活性化し、アートを制作・保管・公開する母胎として今後の役割が期待される。

 

 関連URL

setouchi-artfest.jp

あいちトリエンナーレ2013

http://www.yokohamatriennale.jp/2014/

www.parasophia.jp

 

参考文献

 

美術手帖 2013年 03月号増刊  瀬戸内国際芸術祭2013 公式ガイドブック アートをめぐる旅 完全版 春 [雑誌]

美術手帖 2013年 03月号増刊 瀬戸内国際芸術祭2013 公式ガイドブック アートをめぐる旅 完全版 春 [雑誌]

 

 

美術手帖 2013年 07月号増刊 瀬戸内国際芸術祭2013 公式ガイドブック アートをめぐる旅 ―――夏・秋

美術手帖 2013年 07月号増刊 瀬戸内国際芸術祭2013 公式ガイドブック アートをめぐる旅 ―――夏・秋

 

 

 

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