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ビジュアルレビューマガジン

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「一枚の布から」三木学

ファッション テレビ

www4.nhk.or.jp

先日、NHKで三宅一生の最近の活動についてのドキュメンタリーが放送されていた。三宅一生と言えば、西洋的な立体的な裁縫ではない、「一枚の布」という日本や非西洋圏の衣服に着想を受け、文化を横断するデザインで一世を風靡してきた。

 

特に折り目のある加工素材プリーツを使用した「プリーツ・プリーズ」のシリーズは今でも根強いファンが多い。プリーツは特に形態記憶的な素材であり、非常に小さくなると同時に復元力もあり、収納に便利なため、旅行などにも重宝されている。また、体型を問わず、身体との絶妙なフィット性と同時にゆとりが出ることも人気の秘密だろう。身体との「間」は、三宅のテーマである。

 

近年では、「一枚の布」をさらに進化させ、「折り紙」をコンセプトにデザインをした服を制作している。番組では三宅の折り紙のシリーズ「132 5. ISSEY MIYAKE」を通して、研究開発チーム「Reality Lab Project Team 」とコラボレーションしながら、ときに道場のように、学校のように三宅が若手を育てていく過程が記録されていた。「132 5.」とは、1枚の布が、3次元の衣服となり、2次元の平面に折りたため、身体にまとうことで、時空や次元を超越する5の存在となるという意味が込められている。

 

近年、折り紙は、宇宙工学への応用や、複雑な造形物の創作など、様々な進化を遂げている。それはコンピューターソフトの発達で、簡単にそれらのシミュレーションが可能になったからでもある。「132 5.」の誕生も、筑波大学准教授の三谷純氏の折り紙シュミレーションソフトウェアの出会いが大きい。

 

プリーツ・プリーズもそうだが、三宅は新素材への探求には余念がない。「132 5.」も再生ポリエステルを改良したもののようだ。同時に、日本の伝統的な素材についても常に探求をしており、日本各地を周り素材を探し、その継承についても心を配っている。また、「132 5.」のような複雑な縫製の服を作るためには、優秀な職人との信頼関係も重要である。番組でも難しい縫製をこなす日本の職人の技にも光があてられていた。

 

そして、完成された「132 5.」のシリーズを見てると、光沢性のある色と、鮮やかな色のコンビネーションは、まるで琳派の絵のように思えた。また、マティスの切り絵も連想させられる。しかし、絵画(2次元)や彫刻(3次元)ではなく服であるところがポイントだ。

 

バウハウスでは建築が、一つの造形芸術の統合であるとされたが、もう一つの統合の極は衣服と身体だろう。衣服は常に時代の機運を担ってきた。人々の気分に一番近いのは常に衣服である。

 

番組では、ダンスカンパニーNoism(振付:金森穣)によって、衣服と身体が複雑な多面性を奏でており、まさに、次元を超えた芸術に昇華しているように思えた。しかし、同時に三宅が最終的に拘っていたのは、あくまで着心地だ。芸術性ではない。

 

時代が、拘束的な服から、着心地を求める時代になっている。その着心地をさらに進化させて心地よいものにしたい、と番組で三宅は述べていた。だから、綿密に計画されているように見える折り紙を使った衣服のデザインも、モデルに着せて着心地を確認しながら、その場で変更を加えていく。

 

そして、三宅が、最先端のものと、伝統的なものを組み合わせながら、人間の身体性や心地よさに拘っているからこそ単なる技術披露や、一過性の流行にならないのだと改めて思わされた。日本と日本人の美学について深い理解がありながら、偏狭なナショナリズムやローカリズムに陥らない普遍性を持っているのもそこに秘密があるだろう。

 

参考記事

bizmakoto.jp

 

参考文献

立体ふしぎ折り紙

立体ふしぎ折り紙