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「盲目の画家はどこまで見えているのか?」三木学

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アメリカで、盲目の画家が素晴らしい色彩の絵画を描いている事が注目されている。 アメリカ、テキサス州を拠点に活動している、ジョン・ブランブリットさんは11歳のとき癲癇になって、その後、徐々に視覚が失われ30歳の頃には全盲になったそうだ。

 

しかし、点字で絵の具を選び、隆起するファブリック塗料を使って、手を添えながら盛りつける触覚を頼りにした画法で、鮮やかな色彩の絵画をつくりだしている。その色彩感覚は驚くほど精緻で、微妙なニュアンスまで表現されている。

 

盲目の画家がここまで正確に、そして色彩を使えるのか?と誰もが思うだろう。しかし、彼は色彩を「覚えており」、目が見えなくとも、頭の中のイメージを、実現することができる。問題は、脳のイメージと実現された絵がどの程度の差異があるかだろう。

 

港千尋の『記憶 「創造」と「想起」の力』には、事故によって、色彩の知覚と記憶を失った画家、ジョナサン・Iの話が出てくる。ジョナサン・Iは、ジョージア・オキーフなどと一緒に活動をしていた抽象画家の経歴があり、アートディレクターとして活動してた。

 

色彩を専門とする画家であり、アートディレクターが事故によって、色をまったく認知できなくなり、世界をモノクロで認識するというより、色がない状態で認識せざるを得なくなった。色がどういうものなのか、わからなくなったのだ。それだけではない、赤いトマトや黄色い向日葵のような、色がついている世界の記憶も想起できなくなった。

 

ジョナサン・Iの事例は、精神病理学オリバー・サックスが報告しており、脳の色を感じる部位に損傷を起こしたと推測している。大脳視覚野は、V1と言われる一次視覚野及びV2、V3、V4、V5とあり、主に色彩情報はV1、V2を経由し、V4で処理された後、下側連合野(IT)に送られ、色の認知が行われるとされている。

 

つまり、ジョナサン・IはV4になんらかの損傷が起きたことになる。もっとも視覚情報は、これらのルートを複雑に回帰しながら処理されるので、単線的かつ一方的な単純なものではないことがわかっている。ジョナサン・Iは初期の混乱状態から、色のない世界に馴れ、モノクロの構成的な抽象絵画を描くようになり、脳に新たなフィードバックが起こっている点でも興味深い例になっている。

 

とはいえ、ジョナサン・Iは、色彩情報以外は見えている。一方、 ジョン・ブランブリットは、色の記憶を思い出しながら描いているので、まったく見えない状態でありながら、色の知覚の部位は損傷してないということになるだろう。彼は目は見えなくても色は感じていることになる。

 

近年、脳のイメージを、fMRIなどを駆使し、脳の部位の血流量を高性能で測ることによって、脳のイメージを再現する実験が成功している。その精度はまだ発展段階だが、今後は目に見えるイメージだけではなく、夢のような目で「見てない」イメージすら再現できるようになる可能性は高い。

 

ということは、ジョン・ブランブリットの描いた絵が、イメージの中ではどのようなものなのかもわかるだろう。実際彼が見ているイメージはどのようなものなのか。彼の描いた絵に限りなく近いのか、また、まったく異なるのか。興味は尽きない。

 

参考URL

bramblitt.myshopify.com

 

参考文献

記憶―「創造」と「想起」の力 (講談社選書メチエ)

記憶―「創造」と「想起」の力 (講談社選書メチエ)

 

 

脳は美をいかに感じるか―ピカソやモネが見た世界

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