「新しい色の古い名付け方」三木学
先日、「まつざきしげる色」なる絵の具がサクラクレパスから発売されていることが話題になった。
実際のクレパスの色だけから、直接、松崎しげるを想起するのは難しいかもしれないが、「まつざきしげる色」と色がセットになることで、一瞬にして、‟あの”濃い茶色を思い浮かべることができる。固有色というのは、一般的には物体に固有の色である物体色なので、物体の名前を色名にすることで、連想するのはたやすくなる。
色は原初的にはそうやって伝達されてきた。バーリンとケイは、基本色彩語と言われる、赤、黄色、緑、青、紫、橙色、茶色、白、黒、灰の11色については、人類共通の普遍的な色名であるとした。つまり、固有色名の上位に11に分類できる普遍的なカテゴリがあり、そのことはカテゴリカル色知覚と呼ばれている(その後11色よりも少ないという研究がある)しかし、11色に関しては、想起するものも膨大になり、逆に直接的な連想の結びつきは弱いかもしれない。
ただし、新しい色名の場合は、固有色名のような、直接連想できるような古い名付け方になっていく。19世紀に化学染料や顔料がどんどん作られた時代は発明者に由来する名前が多かった。他には西洋では、絵画に使われた色から色名が決められることもある。例えば、ヴァン・ダイク・ブラウンのような、アンソニー・ヴァン・ダイクが使用した茶色から名前と絵の具が作られている。イヴ・クラインが作ったインターナショナル・クライン・ブルーなども有名だろう。絵の具や塗料が作られてなくても、色名になっている画家は多い。
フェリシモが1992年に開発し近年、再生産された500色の色鉛筆も話題になった。それらの色名は、ユニークな色彩学者として知られる野村順一氏による解説とともに、文庫本にもなっている。フェリシモの色鉛筆の名付け方は、具体的な物体や自然と、詩的な印象によるものと混ざっているのが興味深い。
どちらにせよ、新しい色名を考えることで、記憶や共感覚と結びつき、印象として大きな効果を上げることもあるだろう。コンピュータによって、すべての色が数値的に置き換えられる現在だからこそ、名付けることによってもたらす心理的効果というものをもう一度考えてもよいのではないだろうか。
参考文献