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ビジュアルレビューマガジン

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犬飼とも+ワタノハスキッズ 『ワタノハスマイル―笑顔になったガレキたち-』三木学

 

ワタノハスマイル-笑顔になったガレキたち-

ワタノハスマイル-笑顔になったガレキたち-

 


「ワノハスマイル」というプロジェクトを初めて知ったのは、編集者、都築響一さんのメールマガジン「ロードサイダーズ」もしくは、クラウドファンディングのサイトだったのではないかと思う。

 

 

クラウドファンディングは、不特定多数からインターネットを使って資金調達するためのウェブサービスとしてアメリカで普及し、日本ではちょうど2011年、震災の年にスタートした。そのために、当初は震災がらみのプロジェクトが多く、その傾向は今でも続いている。


ワタノハスマイルは、震災関係の多かったクラウドファンディングの中でも非常に秀逸なアートプロジェクトとして注目をされていた。もともとは、宮城県石巻市渡波(わたのは)小学校において、校庭を中心に置かれていた大量の震災瓦礫を使った、子供達のオブジェ制作のプロジェクトとして、造形作家の犬飼とも氏が始めたものだ。


宮城県から山を越えた山形県在住の犬飼氏は、震災前から海に流れ着いた瓦礫を使ったオブジェ制作やワークショップを行なっており、震災後、避難所となった渡波小学校でボランティアをしながら、このプロジェクトを立ち上げた。

 

出来上がったオブジェの多くが、笑顔でキャラクター性があり、見ている人も思わず微笑んでしまうものがたくさん誕生した。震災直後の過酷な状況の中でも、笑顔を生み出したことに由来し、事後的に「ワタノハスマイル」と命名されることになった。


オブジェはたちまち評判となり、日本中で展覧会が行われ、ついにはイタリアにも招聘された。クラウドファンディングはその時の子供と親御さん達の渡航費捻出のために活用されたのだと思う。


人類学的な用語では、このような行為をブリコラージュと呼ぶのだろう。しかし、ここまでブリコラージュの思想を体現しているプロジェクトも珍しい。震災直後で遊び道具のなかった子供達の想像力を、震災瓦礫とグルーガン(ガンタイプの接着機器)だけで引き出したということが多くの人達にとって驚きであったし、オブジェの面白さが思わず応援したくなるということも大きかった。

 

もちろん、オブジェだけでも面白いのだが、その誕生は震災とは切っては切れないし、震災の瓦礫で子供達が作ったものでなければここまで評判にならなかったかもしれない。瓦礫の一つ一つが代替のないバラエティのあるものであったことも大きい。(犬飼氏は瓦礫を元々は住んでいた大切な町から生まれたものだとして「町のカケラ」と呼んでいる)

 

当初、犬飼氏は大量の震災瓦礫をアートに変え、それを売って瓦礫を片付けるという大きな構想を持っていたようだ。その目論見は途中から玩具の寄付がどんどん届いたことと、瓦礫が処理されていったことで方向転換せざるを得なくなったようだ。しかし、震災後1ヶ月という非常に早い段階でこのプロジェクトを実施したことは時間を経るごとにその価値を増すだろう。


震災から3年を前にプロジェクトが一冊の本として編纂され、改めて子供達がこれだけ楽しく、明るいオブジェを生み出したことに驚かされる。当時は大人達は相当に気分も滅入っていたことは想像に難くない。実際は、単純な美談として語れるほど容易なプロジェクトではなかっただろう。


この本には、失った痛みと作る喜びが同居しているが、掲載されているオブジェがそれを乗り越える希望や笑顔をもたらしている。歴史的な事実として記述される価値のあるプロジェクトであり、制作した子供達にとっても多くの人々にとっても、震災下において作り出した希望として常に参照される役割を担っていくだろう。


また、写真家、大森克己が捉えた子供たちの笑顔やスナップショットも、本に彩りを与えている。改めて日常にある物と時間の愛おしさが感じられる本である。