塗料という画材「天野喜孝展 想像を超えた世界」展三木学
撮影可能だった最後の部屋。荷物が多い中、iPhoneで適当に撮影したので画像がブレているが、特に色面の多いところに車用の塗料を使っている。タブローのヘリまで絵を描き、塗料を塗っている処理が非常に上手い。
先日、兵庫県立美術館のミュージアムロードにパブリック・モニュメントを設置する事業として、ヤノベケンジさんが《サン・シスター》という巨大少女像を制作し、そのお披露目式があったので記録がてら見に行った。
蓑館長、地元の議員や学校関係者の列席のもと、地元小学生の合唱団が巨大少女像の前で歌うなどお披露目式は盛大に行われた。その後、時間が空いたので、兵庫県立美術館で開催されている舟越桂展と天野喜孝展を見てから帰ることにした。
非常に詳しい人はたくさんいると思うが、恥ずかしながらその絵はよく拝見しているものの天野喜孝さんのキャリアを全く知らずに見て驚くことになった。知らないばかりか、日本の子供たち、特に僕らの世代なら全員知っている。
タツノコプロに入り、ガッチャマン、タイムボカンなどのアニメーターとなり、その後、ファイナルファンタジーなどのキャラクターデザイン、小説「グイン・サーガ」シリーズの装幀画や舞台美術など、一時代を築いたアニメーター、イラストレーターといっても過言ではい。
特に、15歳の頃にタツノコプロに入っていたというから、とんでもない早熟の天才である。それだけではなく、延々と異なる分野でもキャリアを積み上げてきており、見ていてその画歴に圧倒されるばかりだった。妖艶、幻想的と言われる絵は一つ一つの線や彩色が細かく、1枚にどらくらいの時間がかるのだろうかと想像するだけでも眩暈がしそうだった。
現在では、依頼をうけて描くだけではなく、独自の世界観をもとに絵や彫刻を制作し、ファイン・アートのアーティストとして、パリ、ニューヨーク、ドイツ等で展覧会をしており、評価を受けているようだ。今回は、アニメーター、イラストレーターとしての広く認知されている天野喜孝が、アーティストとして日本の公立美術館で巡回展示される初めての機会だという。
展示の最期の方が、特に個人的なモチーフを元にした、アートとしての表現が展示されていたのだが、当然、作品としての完成度は非常に高い。それだけではない工夫がいろいろされており、特に、巨大な絵画の画材に、車用の塗料を使っていることには驚いた。
色彩業界というのが仮にあるとすれば、市場は圧倒的に塗料が大きく、塗料の中でも車の塗料がずば抜けている。その次は建材になり、各社、車依存から脱却を図ろうとしているものの、今なお車の市場は大きい。
塗料メーカーは、毎年、新色を作り、車メーカーに提案している。もちろん、車メーカーのカラーデザイナーが依頼することもあるが、新技術の開発には余念がない。メタリックやパールマイカなどを含んだ乱反射してキラキラ光るもの、多層性にして複雑な色を反射するものなど、様々な種類がある。
天野喜孝は、巨大な絵画に、パールマイカの入った塗料を使うことで、色面に光沢性と光干渉によってキラキラ光る要素を加えており、世界観を上手く表現していた。車用の塗料を絵画に使っているアーティストを、少なくとも僕は初めてみたと思う。
近年、質感を重んじた表現が、ファイン・アートでも流行しているが、色彩の中でももっとも工夫されお金が投じられてるといってもよい、車の塗料を使うのは一つの手だろう。色彩と質感の両方を探求できる。
誰も真似できない、伝説的なキャリアを持ちながら、さらなる表現を探求する姿勢には改めて感服するものがあった。
参考文献
トコトンやさしい塗料の本 (B&Tブックス―今日からモノ知りシリーズ)
- 作者: 中道敏彦,坪田実
- 出版社/メーカー: 日刊工業新聞社
- 発売日: 2008/04
- メディア: 単行本
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