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街の中からデザインを発見する-ロブ・フォーブス「ものの見方」三木学

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写真を撮影する目的はたくさんある。記念写真や報道写真、民族学や工事のための調査の写真、最近ではSNSで友達と共有するための写真など、写真という道具は、あらゆるジャンル、あらゆる階層、あらゆる年齢の人が使う普遍的な道具になっているといっていいだろう。

 

 

写真が発明されたのが、ダげレオ・タイプがフランス化学・芸術アカデミーで発表された1839年前後として、約175年の間に写真は常に技術革新を続けており、今日でもまだそれは続いている。デジタルカメラが普及したのも21世紀に入ってからであり、まだ15年しか経っていない。スマートフォンは2007年に初代iPhoneが発売されてからなので約8年。Photoshopは1990年頃なのでもう少し古いが、デジタル化の波は写真文化を大きく変えてしまったことは誰もが認めることだろう。簡単にいえば、写真は単体ではなく、ネットワークでつながれた巨大なイメージの一つになったといえる。

 

ということで、カメラは今や多くの人が1台は携帯しているし、2、3台持っている可能性もある。デザイナーのロブ・フォーブスは、写真を使って、世界の街を歩き、デザインを発見している。デザインを発見すると言っても、意図されたデザインではなく、異なる文化や環境の中で、偶然に現れるデザインであり、著者のいない匿名性のデザインである。

 

その理由として、すでに商業的なお店では、デザイナーの感覚がグローリズムの影響により、だいたい似てきており新しいデザインを発見できなくなったことにあるという。街に出ることによって、地域性のある形や色彩、文化による新たなデザインを発見し、写真に撮りためていくことができるというわけだ。

 

このような行為は、多かれ少なかれ少なかれデザイナーはしているかもしれない。また、写真家はその専門家といってもいい。環境と知覚や認識の相互関係によって成り立つのが写真の特徴の一つである。また、アーティストが街に出て、匿名性のアートを発見するという行為は、日本では赤瀬川原平の「超芸術トマソン」などが連想される。

 

街の中にデザインやアートを見る、という視点に立てば、街中にもっとたくさんの可能性を見出すことができるだろうし、街をよりよくすることも可能かもしれない。例えば、サンフランシスコにある新聞や雑誌の自動販売機が、原色に彩られ強烈な自己主張をしている写真がある。ロブ・フォーブスはこれは「都会特有のおしつけ」であり、企業側がパブリックスペースの問題を考えなければならないと指摘する。一方、イタリアの街中にある新聞や雑誌を売るスタンドは、周囲の環境を意識し、明度・彩度を抑えた緑に塗られている例を示す。このようなことは日本でも顕著にある。原色の看板が立ち並ぶ都心やロードサイドに、多少でも美的感覚のある人ならば辟易してもおかしくはない。環境の破綻にエキゾチシズムを見出す趣味のいる人もいないではないだろうが…。

 

色彩は特に、直接的な刺激として知覚に影響を及ぼすので、印象に残りやすい。そして、写真はそれらの発見を視覚化するのにもっとも適した道具だろう。ロブ・フォーブス自身も写真があるからこそ、デザイン性を自覚し、定着できるともいえる。

 

写真家、映像人類学者の港千尋さんと編著した『フランスの色景』は、写真による色彩環境の発見と分析をテーマにしたものだった。デザイン感覚があるものにとって、写真を撮るという行為は、環境がもたらす偶然の配色と無関係ではない。その奥に隠れる色彩環境や色彩感覚の詳細な分析を試みたのが『フランスの色景』で、実験的ながら3次元の色空間分布や、色名分析を駆使して、風土と感覚の根底にある配色の法則を詳らかにした他にはない本だろう。

 

写真によって、デザインを発見することは、街の環境をよりよくすることに繋がるのは間違いない。それは実践するものに発見と深い洞察を与え、その成果を共有するものにも、自覚と行動を促すことになるのだ。

 

参考文献

フランスの色景 -写真と色彩を巡る旅

フランスの色景 -写真と色彩を巡る旅

 

 

超芸術トマソン (ちくま文庫)

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 関連書籍

 

街角で見つけた、デザイン・シンキング

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