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集積・連携・ネットワーク「大阪と現代アート」三木学

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堂島リバーフォーラムから堂島川を望む。作品は島袋道浩の《浮くもの/沈むもの》2010

 

近年、京都の現代アートシーンは活性化しているように思える。今年は特にPARASOPHIA京都国際現代芸術祭、KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭などが開催され、都市型の芸術祭も充実している。PARASOPHIA、KYOTOGRAHIEと連動して、京都市内の文化施設、ギャラリーでも様々な関連企画が行われていた。特に元崇仁小学校は、JR京都駅から徒歩で行ける距離にあり、京都市立芸術大学が移転することも決まっているため新たなアートの発信地として今後注目されるだろう。

 

それ比べて、大阪はどうだろうか?京都のように美術・芸術大学が集積していないこともあり、一見、現代アートについては盛り上がってないように思える。都市型の国際芸術祭としてはあいちトリエンナーレが目立っていたが、京都が21世紀になって初めての国際芸術祭を開催したことによって京都の存在感を一定程度示せたことも大きいだろう。

 

大阪で国際芸術祭を開催する動きは今のところない。しかし、今年の夏から秋にかけての動きは大阪のアートの新しい可能性を示しているかもしれない。まず、アートフェアであるART OSAKAは、ここ数年、大阪駅に隣接するホテルグランヴィアで開催されており活況を呈していた。特に近年は海外からのギャラリーの参加も増えており国際色が増している。ポスト・インターネットのアーティストや、最近注目されてきている新しい抽象表現に関する企画展も見られ、内容も充実していたといえる。

 

そして、11年ぶりに開催されている中之島にある国立国際美術館でのヴォルフガング・ティルマンズの展覧会が開催中だ。国内外でもっとも注目されるアーティストの一人である大規模個展でありながら、規模の大きさもあり巡回する予定がないことも大きい。ティルマンズの11年ぶりの日本での個展は独特の写真展示の方法に加え、その間に発表された様々な実験的な表現やネット時代のスナップとでも呼べるようなリアルとネットを横断する展示、空間のコーナーを使ったダブルイメージの映像など見所は満載である。

 

ヴォルフガング・ティルマンズの会期中に合わせて、地下2階では「他人の時間」展も開催されている。「他人の時間」展は、国立国際美術館シンガポール美術館、クイーンズランド州立美術館|現代美術館、東京都現代美術館の4名のキュレーターの共同企画であり、アジア・オセアニア地域の作家20名の作品から、近代史から漏れ落ちた様々出来事を私的に読み替えて浮かび上がらせる。それは他人事(ひとごと)を我が事に、他人の時間を自分の時間に引き寄せる試みになっている。

 

国立国際美術館は、中之島の地中に展覧会場があるという、日本でも極めて珍しい美術館であるが、巡回するような大きな展覧会は、地下2階で開催され、地下1階が美術館のコレクション展や企画展ということが多いので、今回のパターンは珍しいが、雑誌的な動線を操作するティルマンズにとっては、細長い空間を作りやすい地下2階が適していたといえる。

 

そして、中之島の対岸にある堂島では、堂島リバーフォーラムで、2年に一度開催されている堂島ビエンナーレが同時期に開催されており、今年は特に評判が良いように思える。堂島リバーフォーラムは会議などに使われる大きなホールを中心にした複合施設であり、現代アート専用の展示空間ではないが、特徴的な空間を上手く利用している点も見逃せない。

 

地域活性化を目的とした地方の芸術祭では、観光も兼ねているためオリエンテーリングのように広大な範囲を見回らなくてはいけないことが多いが、現代アートに絞って一箇所で鑑賞できることが逆に新鮮さを感じる。世界の潮流を現代アートを介して知ることができることが、国際展の本来の在り方だと思うが、堂島ビエンナーレはその本義をコンパクトに実現している。副題が「同時代性の潮流」ということなのでズバリといったところだろう。

 

ティルマンズの展覧会にちなんで、会期前半に周辺画廊が連携して、現代アートの中でも写真を扱っているアーティストを取り上げ、OSAKA PHOTO WEEKという関連企画を開催していたことも今年の新しい試みだった。中之島に距離的に近い画廊も多く、内容的にも充実していたといえる。特に中之島バンクス de sign de > では最近注目されている伊丹豪の展覧会が開催されており、具象と抽象、巨大プリントと映像を等価に並べるエッジの効いた表現を行っていた。すでに中堅である勝又公仁彦のホテルの室内から窓の内と外を撮影した「Hotel's Window」も評判を呼んでいた。会期中に開催されたあいちトリエンナーレ2016の芸術監督でもある港千尋との対談も盛況だった。

 

10月になると、大阪カンヴァスという大阪市内の広域を使った現代アートのイベントや、注目のデザイナーが集積して先端の動向を伝えるデザインイベントとして評価の高いDESIGN EAST、大阪の歴史ある建築を「生きた建築」として再評価する「生きた建築ミュージアム」のフェステバルなど、アート、デザイン、建築のイベントが続く。

 

一つの大きな国際展という形ではないが、大阪市街地が非常に狭いこともあり、文化施設が集積していることを活かして、独立性を持ちつつもゆるやかに連携し、ネットワークを張り巡らして、新たな文化シーンを生み出す力があることを大阪は示しつつあるのではないか。それは大阪ならではの形になりつつある。

 

※追記。
会期中に、大阪ニコンサロンでも展覧会が開催されていて、ちょうど知人の山内亮二さんなどの作品が展示されていた。アートと写真の境界線が限りなく曖昧になっているので、大阪ニコンサロンのような写真専門のギャラリーとも提携しても良かったかもしれない。

 

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