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染料の中の染料と日本「藍と紅」三木学

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(C)Manabu Miki

過去の記事で、藍と紅という、代表的な染料の分布を分析したので、まとめて掲載しておこう。

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 藍

藍は日本の色、ジャパンブルーと言われたりするが、そもそも、中国から渡来した染料である。中国の戦国時代(紀元前403年~前221)には、思想家の荀子が『荀子』勧学篇に「青は藍より出でて藍より青し」という有名な言葉を記している。青は藍の葉で染めるが、染めた色は染料としての藍よりも美しい青になっている、という意味であるが、「出藍の誉れ」という弟子が師より優れていることに例えられている。

 

しかし、藍染の技術は、中国だけではなく、インド、ペルシャ、エジプトなどでも同時期に完成さていたと予想されている。つまり、古代文明の発達したところに共通した染色技術であったということである。

 

藍染の原料となる材料は一種ではない。草本、木の葉など多岐に渡っており、それぞれ土地の中で藍の色素を持つ植物を育成し、染料に使ってきた。染色家の吉岡幸雄氏の『日本の色辞典』(紫紅社、2000年)には下記のように記されている。

「インド・アフリカなどの熱帯性気候の地では、マメ科の木藍である印度藍やナンバンコナツナギ、中国の南部やタイ、ラオス、沖縄などの亜熱帯ではキツネイマゴ科の琉球藍、日本や中国揚子江流域などの温帯ではタデ科の蓼藍、ヨーロッパや北海道などの寒帯ではアブラナ科の大青(たいせい)が、それぞれ用いられてきた」

 

つまり、藍は世界共通の青のイメージであるといえる。日本では、藍染の技術は、5世紀頃に渡来人によってもたらされたとされている。当然ながら古代文明を含めた歴史を考えると、日本は色彩技術においても新興国に過ぎない。しかし、天然染料の藍を、化学染料が大量に導入される明治まで使い続け、庶民に浸透していたという意味では、天然の藍を愛してきた民族であるとはいえるだろう。

 

以下に、藍染の色彩分布を示しておく。

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マンセル表色系の色相・彩度図。
藍を染料とした色名をプロット。

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マンセル表色系の明度・彩度図。
藍を染料とした色名をプロット。

 

一方、紅(くれない、べに)の染色技術も渡来人によってもたらされた。藍とは違って、紅の染料となる植物は紅花である。紅花はエチオピア、エジプトなどの東アフリカが原産地とされており、エジプト古代王朝から栽培された痕跡があり、王朝末期には紅花を精製した口紅が発掘されている。

 

シルクロードの交流が盛んになってから、紅花は東に渡り、匈奴にもたらされた。前漢武帝匈奴の紅花の産地を奪ったため、紅花染の技術は中国にもたらさた。日本には魏呉蜀の三国時代と、その後の五胡十六国南北朝の時代に大陸と交流し、5世紀頃、渡来人によって紅花がもたらされたとされる(近年、3世紀には輸入されていたという研究が行われている)。

 

中国では紅藍と呼称していたそうで、藍はもっとも代表的な染料として、染料そのもの名称になっていた。日本では呉の地方からもたらされたということで、呉藍(くれあい)と発音とされており、それが転じて「くれない」となった。

 

以下に、紅花染の色名の色彩分布を示しておく。

 

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マンセル表色系の色相・彩度図。
紅花を染料とした色名をプロット。

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マンセル表色系の明度・彩度図。
紅花を染料とした色名をプロット。

 藍と紅

江戸時代に、藍染の染料生産は、徳島県吉野川流域で、紅花染の染料生産は山形で盛んに行われるようになった。色相・彩度図で見ると、やや両方、紫よりの色であり、色相間の距離も補色ほど大きく離れているわけではない。

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マンセル表色系の色相・彩度図に両方の色名をプロット。

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 マンセル表色系の明度・彩度図に両方の色名をプロット。

 

染め濃淡によって、分布が変わるが色相の幅はそれほど範囲が広いわけではない。明度・彩度図で見ると、紅染が高明度・低彩度から中明度・高彩度にかけて分布し、藍染が低明度・低彩度から中明度・高彩度に分布しており、真逆の関係になっていることが興味深い。

 

紅は国旗の日の丸の色とされ、藍はジャパンブルーと言われており、両方、日本的な色だとされているが、それらの関係を理解しておくことは悪くないだろう。しかし、同時にこの二つの色は人類にとってかなり普遍的な色であるこも知っておいた方がいいだろう。

 

参考文献

日本の色辞典

日本の色辞典

 

 

日本の色を歩く (平凡社新書)

日本の色を歩く (平凡社新書)

 

 

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