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京都を守る見えないネットワーク-谷本 研・中村裕太「タイルとホコラとツーリズム season2《こちら地蔵本準備室》」展@Gallery PARC

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谷本研くん。

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民俗学資料館風に展示されたホコラの断片。

30日(日)まで。本日のトークセッションは5時から。 

 

タイトルが長くて分かりにくい人がいるかもしれないが、テレビドラマ風にseason2とついているように、今年は2回目である。昨年も同じ時期に開催されていた。この展覧会は後3回、つまり5年続けられ、最終的には本としてまとめることが想定されている。

 

タイルとホコラとツーリズム、というタイトルは、京都市内の格子状の街の辻(コーナー)に建てられている主にお地蔵さんを祀っている祠(ホコラ)を調査、展示し、それらのホコラの観光を行うという展覧会の趣向を意味している。

 

また、かつてホコラは木造で作られていたのが、近代化にともない、構造や意匠に変化が現われるようになった。特に戦後の一時期、意匠にタイルが使われるようになり、木造とは違った味わい深いホコラに修繕されているところがある。そのレトロなタイルの意匠を持つホコラに特に注目している、ということである。

 

谷本研は、観光ペナントの研究や展覧会を実施し、アートの視点から観光を捉え直している作家であるが、10年以上前から滋賀の仰木地区に点在する地蔵を調査する地蔵プロジェクトを立ち上げており、より民俗学的なスタンスで活動してきた。

 

中村裕太は、陶芸を使った現代アートの作家であるが、タイルの研究で博士論文を書くなど、本格的なタイルの研究家でもある。彼らの関心の接点となったのが、京都市内で都市化している地蔵とその祠の意匠の変遷であった。

 

京都市内は特に地蔵が多く、コミュニティの結節点になっている。地蔵盆などが行われる8月には、子供たちが集ってお参りをするのだが、近年、マンションの増加にともないコミュニティが解体しつつあり、地蔵盆の継続が難しくなってきているところもたくさんある。

 

谷本は、滋賀の仰木地区という、比叡山の麓の棚田の美しい場所で、原初的な地蔵信仰を調査していたことと比較しつつ、田舎と都市の地蔵信仰の変容を見出している。中村は、ミニ建築とでもいえる、地蔵のホコラの意匠が一時期、タイルが多く使われていることを発見し、その過程を追っている。二人の研究のモチベーションは違うが、偶然、ホコラというテーマで合致したということになる。

 

展示の仕方は、近年の調査型の現代アートというよりは、擬似的な民俗学や民族学の資料館といった趣向で、すべてのタイルや資料には札が貼られ、収集物として展示されている。また、ホコラの写真を撮影し、屋根を付けてポータブルなホコラを作り展示することで、展覧会場でホコラを周れるようになっている。さらに、地蔵やホコラに関する資料を拡大コピーし、カーテンレールで吊り下げるという書庫「ホコラテーク」を作っており、資料を持参すれば、そこに収蔵される仕掛けだ。

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 中央に展示されている「ホコラテーク」。A4サイズの資料を持参すれば、ここに収蔵される。地蔵とホコラを様々な角度から分析した興味深い資料が並ぶ。

 

谷本は自身が選んだ三十三箇所のホコラを、ホコラ三十三所巡礼として展示し、また、実際の場所を周れるルートを作ったりしている。それは西国三十三所観音霊場を模したものだといえるが、あながち間違ってはいない。実際ホコラでは、三十三所観音霊場巡礼で使用するお経などが読まれたりしているそうだ。観音、不動明王、地蔵というのは、それだけ庶民に近い存在だったことを伺われる。

 

今回は、谷本が長年続けている仰木の地蔵プロジェクトの資料も展示しつつ、都市化の中の地蔵との祀られ方の違いなども参照できるようになっている。考現学や路上観察、さらには、民俗学や民族学に影響受けた谷本ならではの展示といえるが、わざわざ法被を作ったり、記念のペナントを作ったりと、相変わらず展示周辺の細かい設定を作るのが上手い。

 

近年のコミュニティ・デザイン等の隆盛に見られるように、コミュニティが各地で決壊していることは明らかである。それは地方より都市において深刻であることは間違いない。特に京都でもマンション住民が自治に参加することはあまりなく、子供たちが参加する地蔵盆が一つのきっかけになることもある。

 

そういう意味では、考現学的や路上観察的な物質への偏愛に留まらず、この展覧会は信仰とコミュニティという根源的なものに依拠している。それはより仰木地区で地域住民と協働作業をしてきた谷本だからこそできるアプローチだろう。また、ホコラが、木造からタイル、そして今日ではステンレスなどに変化していくことは、コミュニティが更新されている証拠にもなっており、何も昔ながらの素朴さが重要だとは限らない。

 

つまり、京都のホコラの存在は、都市におけるコミュニティのバロメーターになっているのだ。この展覧会には、ホコラを守る住民だけではなく、民俗学者や宗教学者、視覚文化研究者も参加して、信仰や都市、意匠などの様々な視点で対話がなされている。つまり、展覧会によって、京都を守る見えないネットワークを浮かび上がらせているのだ。それはまるで普段は気づかないホコラに佇む地蔵の存在を見ているようである。

 

※ちなみに、今回は路上のホコラのアチック(屋根裏部屋)という設定で展示されている。アチックとは、もちろん、日本民俗学の立役者である、渋沢敬三の私設博物館「アチックミューゼアム(屋根裏博物館)」から来ている。アチックミューゼアムは後の民博の収蔵資料の母体となった。谷本がかつて民博での資料を使ってアーティストが展示するという展覧会に参加しているという縁もそこにはある。

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アチック風に展示されている奥の空間。

 

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