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ビジュアルレビューマガジン

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色と共感覚「日本人の色彩感覚(3)」三木学

 

共感覚―もっとも奇妙な知覚世界

共感覚―もっとも奇妙な知覚世界

 

 

色彩学がその初期から、音楽のアナロジーやメタファーで発達してきたように、色は視覚だけに属するものではない。そもそもニュートンがプリズムを使って白色光の分光から色の秘密の一端を解明した時から、色は音楽のような数学的な法則性があると思われてきた。つまり、音の周波数が整数で割り切れれば調和する、というような音楽のようなことが色彩にもあると直観したのである。

 

実際にはそのような数学的な法則性と色彩調和は無関係であったわけだが、ニュートン以来、色彩学の思想の端々に音楽の要素が残っている。そもそも今では、色を扱う人には馴染み深い、色相環ですらニュートンが音楽のように周期性があると考えたからでもある(実際はない)。また、プリズム分光の七色ですら、西洋音階からとられている。

 

実際、ニュートンは赤橙黄緑青藍菫といわれる七色の中で藍(indigo)を確認できたわけではなく、眼の良い弟子が確認したことになっている。それは明らかに西洋音階の七音がまず頭の中にあって、無理やり見えない色を見出したと言ってよい。もちろん、色はグラデーションであるので、その境界線は厳密には民族や人によって違うのであるが、概ね6色がはっきり見える境界線であろう。

 

しかし、色彩学はそうやって音楽理論を借りて発達してきた。トーンと言われる概念は、音楽の調性にあたるものだし、色彩調和は協和音にあたるものである。

 

そのようなメタファーのレベルの色と音の共感覚性もさることながら、実際に音に色を知覚する人々がいる。その他にも、味に形を感じる人など、感覚器と脳の部位が交錯的になっている人々が一定数いることがわかっている。その中でも、音に色を感じる色聴と言われる人が共感覚者の中でも一番多いこともわかっている。それなら、音視という言葉の方が適していると思うし、実際、僕は音視というテーマで展覧会を開いたことがある。

 

それはともあれ、共感覚者が過去に考えられていたよりはるかに多いことがわかってきており、色彩感覚といっても、眼という感覚器で得られたものだけでは実はとらえきれないところがある。耳や鼻からも色を感じることはあるのだから。

 

芸術家には共感覚者が多いことも知られているが、著名なスクリャービンやカンディンスキーなどは、真正の共感覚者ではなかったということも推測されている。なぜなら、共感覚者は、環境が変わっても常に、音や文字に感じる色は同じであり変動しないからである。しかし、ある音や文字にどのような色を感じるかは普遍的なものはなく、各自バラバラである。

 

スクリャービンなどは、音階に色を当てはめており、それが共感覚者だと思われていた理由でもある。しかし、それはイメージであり、観念的なものであったかもしれない。スクリャービンやカンディンスキーの言説を調べると、知覚が変動していることは明らかであり、現在確認されている共感覚者のそれとは異なり、メタファーとして捉えていたに過ぎないようだ。一方でメシアンは明確な共感覚者であることがわかっている。

 

どちかはっきりと断定できないのは松尾芭蕉などが挙げられる。面白いのは、日本語は色を様々な意味で使うため、単なる視覚言語だけではないということである。日本語では五感の言葉を交錯的に使うことが多数あり、和歌や俳句にはそのような表現が頻発されている。共感者の中には、日本人は明治以前、相当な数の共感覚者がいたのではないかと推測する人もいる。

 

そもそも太古の人類において、五感というのは、感覚器と脳の部位がはっきり分かれたものではなく、互いに交通状態にあった可能性がある。共感覚は脳の辺縁系と関係しているという可能性も指摘されており、脳の古層と関係しているかもしれない。つまり、かつての人類は、世界を共感覚的に見ていたということも想像される。

 

そして、そのような古い感覚を残していたような形跡が日本語の使い方、正確には大和言葉の使い方に多数散見され、中でも眼以外の感覚器から色を感じるという表現は格段に多い。

 

ということは、色彩感覚といっても、共感覚的な探求なくしては、その全貌が見えない可能性があるということである。共感覚者ではない人間が、共感覚者の知覚を想像することは極めて難しいし、かつての日本人がどの程度共感覚を保持していたか正確に調べる術はないが、少なくとも、我々が使っている色(いろ)とは全然違う意味、あるいはもっと多重的な意味で使っていた可能性がある。そこにこそ、日本人の色彩感覚の秘密が隠れている。景色とは、環境すべてを色で捉えることかもしれない。

 

参考文献

 

共感覚―もっとも奇妙な知覚世界

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共感覚者の驚くべき日常―形を味わう人、色を聴く人

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フランスの色景 -写真と色彩を巡る旅

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