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漫画はいかに読まれるか?「雑誌とWeb」三木学

morning.moae.jp

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月刊「モーニング・ツー」で連載していた東村アキコの『ヒモザイル』が第2話の公開時点で、休載されることが発表された。漫画の月刊誌の連載がこれほど大きな話題になることは、今までではまずない。これが大きな反響を得たのは、連載漫画をウェブ上でそのまま公開したからだ。

 

講談社では漫画雑誌の一部をウェブ上で公開している。『ヒモザイル』は雑誌掲載時はそれほど話題になっていなかったが、ウェブで公開した時点で賛否両論が巻き起こり、漫画では異例の騒動になっていた。

モーニング・アフタヌーン・イブニング合同Webコミックサイト モアイ

 

内容が、なかなか芽の出ない自身の男性のアシスタントを、経済力のあるアラサー、アラフォーのOLたちの主夫(この漫画ではヒモ)にするための、実録漫画という体裁をとっており、主に主夫をヒモと呼ぶことへの違和感や男性アシスタントへの扱いが人権侵害的、差別的であるという指摘を受けていたようだ。(職業差別とパラハラ、セクハラのエンターテイメント化とみなされたか?)

 

内容はの是非はおくとして、雑誌掲載のときは、ネット上でほとんど話題になっておらず、第2話では編集部から反応がないということが書かれていた。つまり、ネットでこれだけ話題になり、騒動となった漫画ですら、雑誌掲載時はほとんどリアクションがなかったということなのである。

 

実際、漫画雑誌を読む人口は激減しており、漫画雑誌が廃刊すると、その後、単行本で稼ぐというモデルが根本的に瓦解してしまう。無料でもいいからウェブで公開しようと試みも、基本的に漫画雑誌は立ち読みだと想定すると、ウェブで公開して話題性を呼んだ方が、単行本にした際に売り上げが見込めると考えたからだと思われる。

 

東村アキコが『ヒモザイル』を描く動機として、30半ばになろうとする男性アシスタントが、連載を持つ機会を与えられるかどうか、将来性があるかどうか、ママ友に聞かれ、回答ができなかったこともきっかけの一つとして描かれていた。それは出版自体が斜陽産業であり、その後、漫画がネット時代にどのように変化するか読めないということも含まれている。

 

このような内容が、ウェブで公開されることが、非常に現状を物語っているが、読み違えをしたところがあるかもしれない。雑誌のように漫画を進んで読む読者と違って、通常、漫画を読まないような人々にまで漫画を読む機会を与えてしまったからだ。それは読者を広げるためにあえてしたことなのでそれについては成功したといえるだろう。しかし、それによってお金を払う読者でもない人々から多くの非難(もちろん応援もある)を受けることになったからだ。

 

今回のような内容ではなくとも、購入を想定される雑誌や単行本だからこそ描ける内容があるのは間違いない。そして、漫画家もある程度、読者を想定して描いており、ターゲットの嗜好はある程度理解している。そのような関係性で成立してきた漫画が、ウェブという読者を限定されなくなった場合に、まったく違った読まれ方をしてしまうことが起こるのだ。

 

このような事案は、かつては漫画のテレビ化で起こったことだった。テレビも視聴者を限定することができないので、漫画とは違った反応が起こる。特にお色気描写や暴力描写について、テレビでも度々、視聴者からの苦情があり、それによって一部表現を変えたり、途中で終了したケースもある。

 

だから、今回が漫画が公開メディアに転写されたときに起こる問題として初めてというわけではないが、読者が発言できる、それらがバイラル的に広がるというネット時代においてはまた違う現象があるだろう。

 

浦沢直樹も含めて、漫画家の中には、雑誌のような見開きを想定して描いているので、電子書籍化を認めないという人がいるが、そのような表現効果よりも、媒体の特質が全く変わったとき、どのような表現が可能か(不可能か)ということの方がはるかに重要であり、今回の騒動はその端的な例になったといえる。

 

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