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アートは再生するか?「メディア・アートとメディアの保存」三木学

「ベータ」カセット、出荷終了へ ソニー、来年3月で:朝日新聞デジタル

ビデオ規格「ベータ」40年の歴史に幕。ソニーが2016年3月をもってカセットを出荷終了。VHSはいまだデッキも販売中 - Engadget Japanese

先日、ソニーが生産していたベータ規格のビデオカセットとマイクロMVカセットを、来年2016年3月末で出荷を終了するというニュースが流れてきた。80年代にVHS方式のビデオと激しい規格争いをした上、事実上敗北していた。ビデオデッキは、2002年にすでに生産終了している。一方、VHS方式は、ハードディスク内臓型DVDレコーダーなどにシェアを奪われているものの、ビデオデッキもまだ販売されている。

 

記録メディアや再生装置の移り変わりは早い。特にデジタル化してから速度を増しているように思える。ソニーのメモリースティックなどは、すでに大幅にシェアを失い、ベータと同じ道を辿っている。ZipやMOなど、90年代に普及した磁器ディスクを再生する装置はすでに販売されていない。

覚えていますか?1990年台の磁気ディスクメディア『Zip』:レトロデジギア・ハンター - 週刊アスキー


物質的で再生装置も単純な映像フィルムならば、現在でも再生は可能だ。もちろん、ビネガーシンドロームなど、物理的な損失の可能性はあるが、物質的に消滅しない限り、完全に再生できなくなることはないだろう。現在では再生については、テレシネ(デジタル化)を行い、デジタルリマスターにして、保存に関してはフィルムで管理するという用途を分ける場合もある。

16mmフィルムのビネガーシンドローム対策|映画保存協会(FPS)

 

「現代アートを後世へ 修復・動的保存の方法探る」
http://www.kyoto-np.co.jp/top/article/20151109000011

 

前置きが長かったが、90年代から特に流行したメディア・アートもすでに20年以上の月日を経てきている。その当時最先端の機材で制作されたアート作品を、現在では再生できない、という深刻な問題に直面しているのだ。アート作品は美術館などで公的な資産として保存されているだけに、再生できないとなると致命的な問題になりかねない。

 

記事で取り上げられているのは、ダムタイプの主要メンバーで個人制作でも知られる高谷史郎の《LOVERS 永遠の恋人たち》である。もオリジナルは、同じくダムタイプの中心メンバーであった、故古橋悌二氏が1994年に発表し、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のコレクションになったものだ。高谷史郎はせんだいメディアテーク開館記念として2001年に再現制作した。しかし、高谷が2001年に制作したバージョンも、記録メディアにレーザーディスクとDVDを複合的に使っており、LDが制作時点で生産は終了、DVDプレイヤーも同型の入手は困難だという。プロジェクターの耐用年数も超えており、現在のプロジェクターに置き換えると、明るすぎて見え方が変わってしまう、という。

 

この問題は、今後、保存作業を継続するたびにつきまということになる。作家が存命中なら作家の確認をとりながら保存作業を行うことができるが、没後に保存行為によって作品が変質してしまう場合も、作品自体が再生できなくなる可能性もある。

 

LOVERS 永遠の恋人たち》を第一弾とし、インスタレーションやメディア・アートなどの修復・保存を主導している京都市立芸術大芸術資源研究センターの所長で美術家の石原友明は、「関係者がなくなった後は、譜面に近い記述方法が必要だろう」と述べている。もちろん、音楽では譜面をどのように解釈するかで演奏の方法に個性がでるわけだが、動的な形態なアートに関する保存の模範にはなるだろう。同時に石原は、20世紀型の固定した保存ではなく、動的で新しい創造に再利用可能な保存形態を模索している。

 

ここでは幾つもの課題と解決法が同時に語られている。

 

インスタレーションやメディア・アートなどで、再生不可能になっていくメディアを使っている場合、作家の没後、どのように保存を継続すればいいのか?

 

その回答として、
・存命中の保存方法の記録をとっておいて、没後の保存の更新の参考にする。
・譜面のように、作品が再生できなくなったとしても、再現制作できるようにする。

 

動的な作品を、新たなクリエーションに結びつけるために、再利用できるようにするにはどうすればいいか?

 

これに対して回答はないが、保存の形態だけではなく、著作者の利用許諾など法的な規約なども決めなければならないだろう。例に出しているのが、過去のレコードをカット&リミックスして新しい創造をするDJだからだ。TPPが締結されると、著作権の保護期間は死後70年間に延びるし、また、著作権が切れたとしても勝手に作品の状態を変えることは法的に許されているわけではない。アメリカでは遺族に訴訟され賠償金の支払い命令が出る例も多いので、クリエイティブ・コモンズのような利用ルールも必須になるだろう。

 

どちらにせよ、美術館が収蔵したものの、20年も経たないうちに再生できなくなる、再制作も不可能になる、というのが最悪のシナリオだろう。現代のアートは、わびさびのように、物質が古くなるのを風流であるとして愛でられるようにはなっていない。保存しないとまったく再生・再現できなくなる時代が到来しているのだ。近未来にアートを再生するためには、保存方法の記録、新しい記譜の考案、クリエーションのための再利用など、どれも重要な視点であり、至急に開発していかなければならない課題だろう。

 

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