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動画が変える瞬間の概念「デジタル時代のストレートフォトグラフィー(2)」三木学

wired.jp

先日、大手通信社ロイターが、RAW画像から現像したJPEG画像ではなく、カメラの撮影時に生成されるJPEG画像を納品するよう、契約フォトグラファーに通達したことを記事にした。

ロイターが「RAWは禁止。JPEGのみ可」とフリーカメラマンに通達 - GIGAZINE

 

それは事後的に加工することで、過度な演出がなされることにより、報道写真としてふさわしくないほど事実が捻じ曲げられる可能性があると判断しているからだ。しかし、撮影時にも多かれ少なかれ演出はされており、結局程度問題にしか過ぎないともいえる。

 

そうなれば、カメラの撮影時に操作できる要素が増えていくのはではないかと思っていたが、パナソニックがフォーカスを変えられるカメラを発売したという報道がされた。フォーカスというのは、事後的に変えられないもの、写真の瞬間性を担保するものの象徴だといえる。つまり、シャッター速度と絞りの組み合わせによって、被写界深度(フォーカスが合う距離)は変わるため、開放気味で1点に焦点を当てると、どれだけ事後的に画像補正しても、フォーカスを変えることは不可能だからだ。

 

しかし、近年、ライトフィールドカメラという、撮影素子の前に複数のマクロレンズを置いて被写体の3次元的な光の情報を持つことで、事後的にフォーカスを変えるカメラが登場したことで、写真の瞬間性の概念も喪失しつつある。とはいえ、ライトフィールドカメラはまだまだ特殊で、一般に普及しているものではない。

本格モデルも登場。「撮ってからピント合わせ」カメラ・Lytroがクリエイターを刺激している理由 « WIRED.jp

 

それをパナソニックのカメラはまったく新しい方法で簡易的に実現したようだ。つまり、4K動画の機能を使って、フォーカスを変えながら撮影し、カメラ上で後からフォーカスポイントを選択できるというわけだ。これはまったく逆転の発想というしかないが、そもそもカメラは動画によって発展してきたといってもよい。

 

35mフィルムカメラは、もともと映画の露出確認のために使われていたため、映画のフィルムと同じフォーマットになっている。それがロールフィルムのスチールカメラとして一般的になっていった。もちろん、マイブリッジやマレーの連続写真が、エジソンのキネトスコープやリュミエールのシネマトグラフになり、映画になっていったのだが、映画もスチールカメラを変えていったのだ。もっとも、カメラ・オブスキュラにまで遡れば、暗い部屋に映るものは動画である。もととカメラは動画であったともいえなくはない。

 

今日、デジタルカメラで起きている革命もまた、動画技術のスチールカメラへの転用である。ソニーパナソニックなど、ビデオカメラを作っていた家電メーカーが参入し、動画の技術を駆使しているのは必然ともいえる。ホワイトバランスなどの色温度の調整機能は、もともとビデオカメラの機能で、スチールカメラにはない。

 

今回、フォーカスポイントを事後的に変えるという方法を、ライトフィールドカメラような光学的な装置ではなく、動画によって生み出したというのも当然の帰結なのかもしれない。それが4kという、新しい動画のフォーマットによって作られたのも、フィルム時代と似たようなフィードバックを感じる。

 

RAW画像から現像しないから、演出的ではないという考え方は、わりと近いうちに崩壊するかもしれない。ソフトウェアの処理はどんどんカメラに移植されていくことは間違いない。我々はすでに瞬間性のない時代を生きているのかもしれない。