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日本を代表する知的財産企業の行方「キヤノンとデジタルカメラ」三木学

 

 

news.mynavi.jp

jp.reuters.com

 

キヤノンの御手洗氏が会長に、デジカメ畑の真栄田雅也氏が次期社長になると発表された。キヤノンは、中台韓の台頭で全滅に近い日本のエレクトロニクス分野の中で、デジカメ分野で唯一、世界シェアNo.1を維持している。真栄田雅也氏は、その立役者であり、まだフィルムカメラが全盛の頃に、「電子スチルカメラ」の開発に携わってきた。

 

とはいえ、そろそろ今までのようなデジカメの爆発的な売上も下火になってきる。一つは市場にある程度デジカメが一巡したこと、もう一つはスマートフォンのカメラ機能の向上により、特にコンパクトデジカメの市場が浸食されていることにある。その傾向は今も続き、残っていくのは一眼レフを含めたハイスペックなデジカメのみになっていくだろう。

 

そもそも、デジカメはキヤノンの売上の3割程度であり、後は業務用の複写機の販売やメンテナンスで稼いでいる。いわゆるジレットモデルといわれるような、トナーの交換やメンテナンスが安定収益につながっている。それがトヨタと比べて、売上が1/5程度のキヤノンが一目置かれ、経団連の会長職が回ってくる力となっている。

 

特に、キヤノン複写機を作る際、ゼロックスの膨大な特許を侵害しないよう、綿密に分析し、新たな方法を開発した経緯がある。そのため、日本の企業の中では、もっとも特許や知的財産権の重要性を理解しているだけではなく、実践的な経験と戦略をもっている。ゼロックスとの特許戦争の経緯は、NHKの番組「プロジェクトX」でも紹介されたことがあるのでご存知の方も多いだろう。実際今でも日本の企業の中では、特許部隊は一番多く優秀だと思われる。アメリカでの特許取得件数が、11年連続日本企業の首位となっていることもそれを証明している。

 

数年前には、プリンターのインクのリサイクル業者に対して裁判を行い、勝訴している。プリンターが破格に安いのは、その後のインクを継続的に購入してもらうことで回収するというビジネスモデルなので、インクだけをサードパーティーにリサイクルされたら利益がなくなる。同じ内容の裁判で、エプソンが敗訴したことを思えば、いかにキヤノンがビジネスモデルの根幹を崩されないように、防衛特許を多く保持しているかがわかるだろう。

 

デジタルカメラに関しては、他社に拘束性の強い特許はないかもしれないが、一眼レフなどのレンズ交換型のカメラに関しては、純正レンズによって稼いでいるところはある。レンズ交換によって表現を変えたいカメラマンは、レンズのバリエーションが多いメーカーのカメラを保持しておいた方が有利である。必然的に機種の買い替えの際も、多くのレンズを持ってるメーカーのカメラを買い替えることになる。これも一つのビジネスモデルだろう。

 

とはいえ、コンシューマ向けビジネスは浮き沈みが激しく、キヤノンも収益構造をBtoCからBtoBにより多くシフトしようとしている。以下の記事よると、商業印刷、監視カメラ、次世代半導体の3つを考えているようだ。

 

1つめがオランダのオセ社買収などによって強化してきた商業印刷分野。2つめが監視カメラ分野。これは2015年5月にスウェーデンアクシスを子会社化したことからもうかがえる。3つめは半導体事業。傘下に収めたアメリカのモレキュラーインプリント社とともに、ナノインプリントと呼ばれる新しい方式の次世代半導体露光装置によって、産業機器分野の強化を目指す。

 

キヤノン、新社長にカメラ部門出身の眞榮田氏 - 御手洗氏は会長CEOに専念 | マイナビニュース

 

エレクトロニクスが、BtoBにシフトする流れは加速化している。パナソニックはすでにかなりのウェイトをBtoBに置いてるが、いわゆる家電のようなコンシューマビジネスは、技術的差異はほとんどなく、在庫リスクもあるため、人件費の高い先進国には向かない。そういう意味では、キヤノンも急速にBtoBにシフトしようとしているといえるだろう。

 

今後も、キヤノン知財戦略には万全を尽くすだろう。知的産業における、力の源泉が特許であることを十分に理解しているからだ。デジタルカメラは今後も作るだろうが、事業のウェイトは相対的に低くなる。キヤノンが今後、どこまでデジタルカメに新しい知財のある機能を入れて、牽引していくことができるのか?それは今後の写真文化にも大きく影響を与えるだろう。

 

参考文献

 

キヤノン特許部隊 (光文社新書)

キヤノン特許部隊 (光文社新書)