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ビジュアルレビューマガジン

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縫うように描く、編むように刷る-福重明子展「Circulation change」三木学

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福重 明子展「Circulation change」

2016年1月30日(土)- 2月20日(土)

火曜 - 金曜 12:00-19:00 土曜 12:00-17:00

The Third Gallery Aya - Home

 

先日、福重明子さんの展覧会「Circulation change」をThe Third Gallery Ayaに見に行った。

 

港千尋さんがディレクター、勝又公仁彦さんがキュレーターとなって、開催されていた「風景考」という展覧会のシリーズがある。「風景考」は、shadowtimesがメールマガジンだった頃に度々話題に出てきており、特にモンゴルと日本のアーティストが参加して、モンゴルのウランバートルで開催された展覧会のエピソードは、港さん、勝又さん双方が、それぞれの視点で見たフォトエッセイを配信している。

 

福重さんも、「風景考」のモンゴル展に参加していたアーティストで、主にシルクスクリーンを使った作品を制作している。福重さんはアートスクールの後輩で、名前は度々聞いていたが、なかなか会う機会がなかった。一昨年たまたま、メキシコを代表する写真家、グラシエラ・イトゥルビデが来日し、神戸で展覧会した際、畠山直哉さんとの対談イベントの司会をすることになり、その会場で初めて会うことができた。福重さんは、メキシコにも滞在した経験があり、グラシエラとの交流もあったのだ。

 

昨年開催されたアート大阪で、実際の作品を見せてもらったのだが、線、形、配色ともにとてもユニークで、いろいろ話を伺うことができた。今回は特にモンゴルでの体験を作品にしたもので、アート大阪で出品された作品に加え、新作も制作されている。本来は、今回も直接お会いして、いろいろ聞こうと思ったのだが、残念ながら僕が行ける日と福重さんの在廊日の予定が合わなかった。だから、前回聞いた内容をヒントに、今回の展覧会の感想を書きたいと思う。

 

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《白い食べ物》

 

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《オオカミと遊び》

 

シルクスクリーンで制作している、と書いたが、色面を埋めていくような作品でまったくない。色面となっている領域は限りなく少なく、逆に細い線画で描かれたような動物や風景と模様が、微妙に異なる色で描かれているように見える。その結果、動物や風景と模様が入りまじり、像を結んだり、離れたりする不思議な絵になっている。

 

一見、線画が主体で余白が多く見えるのだが、実は何層にもシルクスクリーンを使っている。紙が不思議な質感に見えると思って近づいたら、白いインクで模様が刷られていたりする。福重さんに聞くと、10枚以上の版を使っているらしく、限りなく1点ものに近い、という。シルクスクリーンとはいえ、簡単に量産できるようなタイプの作品ではないのだ。

 

福重さんが制作するシルクスクリーンの仕上がりのイメージが一番何に近いかと言われると、刺繍かもしれない。時に具象的、時に抽象的な模様、色面ではなく、線画による構成、レースのような独特な表面の質感…。彼女には、刺繍や織りの感覚があるのではないか、と思える。

 

また、一つ一つの作品には、旅のエピソードが込められており、物語性がある。福重さんなりの旅の記憶になっているのだ。モンゴルだけではなく、北極圏やメキシコ、ポルトガル、バリなど、数多くの旅をする彼女にとって、旅の記憶を留め、想起するための記憶のアルバムのような役割を果たしているといえる。

 

福重さんの作品は、詩的でもあり、物語性もあるので、鑑賞者と共有するためには、少し言葉の補足があった方がよい。そう思っていたら、そのことを彼女も気付いているようで、14の作品には個々に旅のエピソードに関する短い文章が書かれていた。そして、全体の説明には

 

2013年モンゴルに滞在したのは秋の1カ月間

そのうち遊牧民の方と生活したのは、たったの10日間。

そこで記憶に残った14の場面

 

と書いている。

 

どのような形式が一番よいのかはわからないが、言葉と絵がセットになったような見せ方は今後も工夫した方がいいだろうと思った。絵本のような形もありえるし、詩画集的な方法もありえるだろう。とても言葉と親和性のある絵なのだ。そういえば、失念したが誰か著名な作家の挿絵に採用されたということも聞いた。自分自身の記憶だけではなく、第三者の記憶ともコラボレーションすれば、面白い展開になるだろうと思えた。

 

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最期の方の作品に、違った展開も伺えた。繊細で複雑な形態の線画が消え、シンプルな形、色面で画面を構成している。タイトルも、「土に染む水」、「羊飼いの声」「湯気」など、具象的なものから、より抽象的で見えないものに近づいていっている。モンゴルのゲルでの生活で福重さんが感じた「循環」は、作風にも変化を与えたようだ。彼女の編むように重ねられる版画が、刺繍的なものだけではなく、染色的、染織的なものになっていけば、さらに面白い展開が見られるだろう。

 

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