ガリ勉の盲点「囲碁AIの知能(2)」三木学
ポスト・ヒューマン誕生―コンピュータが人類の知性を超えるとき
- 作者: レイ・カーツワイル,井上健,小野木明恵,野中香方子,福田実
- 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
- 発売日: 2007/01
- メディア: 単行本
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グーグル傘下の人工知能(AI)ベンチャー、ディープ・マインド社の開発した囲碁ソフト「アルファ碁」と、最強のプロ棋士と言われるイ・セドルの世紀の対決は、5局中3局をアルファ碁が勝利し、コンピュータがついに人間を破ったことで大きな話題となった。
5局すべてコンピュータが勝利するという観測もある中、イ・セドル棋士が4局目に勝利した。なぜか?
イ・セドルが放った一手から、コンピュータの手が狂い始めた。それはあまりプロ棋士が打たない手だったという。
囲碁は、チェス(10の123乗)と比べて展開パターンがはるかに多く(10の360乗通り以上)、コンピュータが人間に勝つのは当分先だと思われていた。しかし、ここ数年の人工知能の発達により、人間に迫る性能になっていた。その理由は、ディープラーニングだと言われている。ディープラーニングとは、ニューラル・ネットワークという脳の知識獲得を模した方法で、パターンを記憶しながら、学習して性能を上げることができるアルゴリズムのことである。
今回、アルファ碁は、プロ棋士の打った3千万種類の局面を「学習」し、対局のシミュレーション繰り返すことで、急速に性能を上げることに成功していた。
例えるなら、東大の過去問題集を完全に記憶し、予想問題まで作って学習を繰り返したガリ勉のようなものである。しかし、そのガリ勉の方法が盲点となった。
つまり、アルファ碁は、プロ棋士という、囲碁に対して優秀な頭脳から学習しているため、彼らが差さないような手や局面になったとき、急速に性能を落としてしまうという欠点があるようなのだ。
これは囲碁だけではなく、人工知能が全般的に考えなければならない課題かもしれない。つまり、人工知能は、人間の知能の優秀な部分だけを学習しており、生真面目なために、一見、優秀な人間でも考えない状況(想定外)が訪れたときに急に能力が落ちてしまう。これは大いなる矛盾だろう。
優秀な知能から学習する、というのはある意味で知能の偏りかもしれない。優秀だと思われた人間が、状況が変わった瞬間に急に対応できなくなるようなことが人工知能には起こり得るのだ。教師なしで知能を得ていくこともあるが、基本的には過去から学習するのが、人工知能の土台である以上、何から学ぶのかに性能が既定される。人工知能にとって重要なのは、優秀な人間に勝つことでだけではない。将来的には、能力がバラバラな人間社会において最適な解を導きだせるかどうか、だろう。
アルファ碁の敗戦は、学ぶということの難しさを改めて教えてくれたといえる。