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評価の発明と物語の科学「人工知能(AI)の紡ぐ物語」三木学

www.asahi.com

 

世界最強の棋士の一人に、人工知能(AI)の囲碁ソフトが勝利して以来、人工知能の熱狂が冷めやらない。この人工知能のブームは、人工知能が提唱されて以来、3度目であるということはよく言われているが、今回のブームは前回と社会的なインパクトが大きく異なっているようだ。

 

それはインターネット以降の大量のデータ、いわゆるビックデータの登場により、膨大な学習をさせることで、人間の知能に大幅にキャッチアップしていることが誰の目にも明らかだからだろう。2005年に未来学者、レイ・カーツワイルによって出版された『特異点(シンギュラリティ)は近い』のブームもあいまって、人間を超える知性を持つコンピュータの到来に、戦々恐々とし始めている人もいる。特に、現実的なことは、仕事が奪われることだろう。最近では、オックスフォード大学などの研究で、5割程度の仕事がコンピュータに代替されることが予想されている。

 

人間の知能という万能的なものを、一つのマシンで超えることはかなり難しいが、仕事というのは基本的に事務的だったり、専門的なものであるため、ルール化しやすい。ルールになるものは蓄積されると学習できるので、コンピュータにそのうち抜かれる。非言語的でルールにならないものこそ、学習することができず、もっとも抜かれにくいだろう。

 

しかし、移動することにおいて、鉄道や自動車、飛行機などの機械に抜かれることは今や当たり前であり(かつては人力車の職業を奪った)、機械に抜かれること自体は全然問題ではないだろう。そこに主体性や意志のようなものがコンピュータに芽生えるかどうか、を誰もが気にしているのかもしれない。これも定義によるが、「心があるように人間が思える」機械は近い将来出てくるだろう。

 

さて、その中でも創造性や芸術性のあるものはコンピュータには難しいと言われている。ルールが複雑な文学もその一つである。現在、人工知能研究では、SF作家で、ショートショートの大家、星新一の小説をデータベース化し、それらを学習して、新しい小説を生成するプログラムが考案されている。今回、星新一賞に4作品を応募し、1作以上が1次審査に通ったという。しかし、まだ人間がサンプルを書いて、そこからアレンジしている段階で、コンピュータがすべてを書くにはまだまだ時間がかかりそうだ。その壁となっているのは、東工大の村井源氏の以下の指摘だろう。

東京工業大大学院の村井源(はじめ)助教(社会理工学)は「オチの斬新さなど、物語の面白さを数値的な指標として評価する『物語の科学』の発展が必要不可欠」と指摘する。

結局のところ、将棋や囲碁のような勝敗がはっきりしているゲームとは違って、小説や物語などの創作物の場合、学習するためには多次元的な面白さを数値にし評価する尺度を持たないと目標に到達できない。そのことを「物語の科学」と命名しているのは適切だろう。

 

神話学という学問がある。同じような神話が世界中にみられる。だから神話には祖型のようなものがあり、それらの構造を明らかにして、分類しているのだ。同じような構造の神話に人類は共感し、感動する心性を持っている。神話学の大家、ジョーゼフ・キャンベルの講義を大学時代に聞き、それを参考にジョージ・ルーカスが大ヒット作『スター・ウォーズ』を生み出したことはよく知らている。

 

そして、現在「物語の科学」がもっとも進化している組織は、ディズニーだろう。脚本のマニアルが多数存在し、優秀な脚本家が揃っているが、実は着々と「物語の科学」の研究を進めて、もう人工知能を作っているかもしれない。スター・ウォーズ』の新シリーズをすべて人工知能が作っていたとしたら?

 

現時点では人間が作っているだろうが、30年後はどうなっているかわからない。評価の尺度があり、ルール化できるものは、確実に学習して新しい創造物も創ることができる。評価の発見、発明こそが、人工知能を躍進させるカギなのだ。

 

参考文献

 

 

千の顔をもつ英雄〔新訳版〕上 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

千の顔をもつ英雄〔新訳版〕上 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

 

 

千の顔をもつ英雄〔新訳版〕下 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

千の顔をもつ英雄〔新訳版〕下 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

 

 

神話の力 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

神話の力 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)