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ビジュアルレビューマガジン

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進化するプロジェクト型授業「ウルトラプロジェクト」三木学

アート デザイン 芸術祭

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ウルトラファクトリー 前期プロジェクト説明会@京都造形芸術大学

より社会に即した能力を高めるために、プロジェクト型授業や実践形式の授業は近年、日本の大学でも増加している。芸術大学も例外ではない。特に、現在日本各地で、芸術祭のような地域アートプロジェクトが数え切れないくらい開催されており、それらの動きと無関係ではないだろう。

 

日本各地で開催されている地域アートプロジェクトは玉石混淆としかいいようがなく、その弊害も指摘され始めているが、ともあれ、それらをキュレーションしたりマネージメントしたりする優秀な人材の輩出は急務である。アートファンにしてみれば、現状では、マネージメント側もアーティスト側も似たような顔ぶれが、日本中を「巡業」しているように感じるだろう。

 

そのような動きと軌を一にして、文部科学省は2014年、大学の国際競争力を高める政策として、「スーパーグローバル大学創設支援」の対象校を採択し、重点的に補助金を支給する制度を進めている。スーパーグローバル大学は、大学全体のトップ型と、ある程度、専門性に特化したグローバル化けん引型に分かれるが、その中で芸術系としては東京藝大が選ばれている。芸術分野も、コンテンツを生み出すことで国際化や国際競争力が期待できるからだ。

スーパーグローバル大学に37校 国際化へ文科省選定 :日本経済新聞

東京藝術大学 | 文部科学省「スーパーグローバル大学創成支援」事業において、本学構想 「“藝大力”創造イニシアティブ」が「グローバル化牽引型」として採択されました。

 

東京藝大はスーパーグローバル大学創設支援の採択を受け、美術研究科にグローバルアートプラクティス専攻を新設し、アート表現を用いて、国際的な社会的実践を行うアート人材の輩出を目指している。

東京藝術大学 | 大学院美術研究科グローバルアートプラクティス専攻の開設について

また、美術研究科、音楽研究科に属さない、新しい大学院研究科として、 国際芸術創造研究科を新設、その一専攻としてアート・プロデュース専攻の授業を今年から始める。アート・プロデュース専攻は、キュレーション、アート・マネジメント、リサーチの3つの専門領域に分かれ、第一線で活躍している講師による実践的な授業が行われる予定である。当然、アート・プロデュースのような内容は、座学だけで教えられるわけがないし、即戦力が求められているからだ。

http://www.geidai.ac.jp/wp-content/uploads/2015/07/news20150701_artproduce_document.pdf

 

その他にも、アートプロジェクトの隆盛に対応した学科やカリキュラムが多くの美大、芸大で開設される動きが進んでいる。

 

その中でも、京都造形芸術大学の全学科共通の造形支援工房ウルトラファクトリーが、2008年度から実施しているウルトラプロジェクトは、いち早く今日の潮流を先取りし、約10年間で進化し多様化し続けている。僕は3年ほど前から外部からの運営サポートをしているが、毎年興味は尽きない。

 

ウルトラプロジェクトは、国際的に第一線で活躍するアーティストやデザイナーを招聘し、彼らが実際、社会で発表するプロジェクトや作品に参加する、プロジェクト型の実践的授業である。

 

ウルトラファクトリーの全体のディレクターは、美術作家のヤノベケンジであるが、ウルトラプロジェクトには、京都造形芸術大学の教員でもある、名和晃平、やなぎみわ、服部滋樹(グラフ)等に加え、明和電機やキュピキュピの石橋義正、ロボットクリエイターの高橋智隆、ビートたけしなど、毎年、様々なアーティストやデザイナーが、プロジェクトディレクターやコラボレーターとなって参加する。

 

今年は、昨年ヤノベケンジとウルトラプロジェクトでコラボレーショした、アートディレクターの増田セバスチャンが独立したプロジェクトを行う。また、アートユニットの淀川テクニックのプロジェクト、京都のアートホテル、Kumagusukuのプロジェクト、美術家の山本太郎のプロジェクト、その他、編集者やデザイナーのプロジェクトなど盛りだくさんである。

 

毎年、入学直後にプロジェクト説明会が行われ、全学科からウルトラプロジェクトに関心のある学生が集う。昨年より1.5倍ほど多く集まった今年の説明会は会場がぎゅうぎゅう詰めとなり、凄い熱気であったが、もっと熱いのはプロジェクトを牽引する各ディレクターである。

 

ディレクターは5分程度の時間で、自分のプロジェクトをプレゼンテーションし、優秀な学生を獲得しなければならない。どのような学生が参加するかで、自分のプロジェクトや作品の質にも大きく関わるため真剣そのものである。必然、ディレクター同士が、自分のプロジェクトがいかに素晴らしいか強調するプレゼン合戦の様相を帯びる。一線で活躍するアーティストのプレゼンは毎年見もので、それを見るだけでプロジェクトに参加したような気にすらなる。

 

その他にも、ウルトラファクトリーの工房機能を最大限使えるように、倶楽部活動を設けているのも面白い。木彫倶楽部、鉄工所クラブ、SFX(特殊効果)クラブなど、倶楽部活動のように楽しみながら技能をマスターできる。淀川テクニックの柴田英昭さんが部長となって、昨年に続き今年も開催される、コラージュ川柳倶楽部(コラセンクラブ)は、新聞の切り抜きで川柳を作るという簡単なものだが、倶楽部活動が始まってすぐにそのユニークさがSNSで注目され、多くのメディアに掲載された。
新聞を切り抜いて作る『コラージュ川柳』がじわじわくるw - NAVER まとめ

コラージュ川柳とは何か? コラセン倶楽部に潜入してきた! - デイリーポータルZ:@nifty

 

ウルトラプロジェクトは、あいちトリエンナーレや瀬戸内国際芸術祭をはじめとした、著名な芸術祭の制作でも大きく貢献しているし、個々のアーティストやデザイナーのプロジェクトにも大きく関わっている。これまでの実績を挙げれば、すでにかなりのキャリアになるだろう。

 

プロジェクト型授業と言うのは簡単だが、システマチックにするのは極めて難しい。かなり属人性が高く、アーティストやデザイナー、あるいはキュレーターやアートマネージャーに創造性や人間的な魅力がないと、結果的に役に立つ授業にはならないだろう。

 

授業という名目で実践形式で制作に参加させることは、バウハウス的な徒弟方式を模したものであり、歴史的に目新しいものではない。しかし、それが容易に形骸化するのは、教師が学生に刺激を与えられる実践を簡単には行えないからだ。


また、個性あるアーティストに、学生が合う場合もあれば、合わない場合もある。それだけにできるだけ選択肢を多くすることにこしたことはない。また、指向性の強すぎるアーティストのプロジェクトよりも、もう少し緩いフレームが向いている場合もある。

 

しかし、何よりコンテンツを生み出す、アーティストやデザイナー、そして参加する学生たちという、人そのものをどれだけサポートできるかが重要なポイントだろう。その意味では、ウルトラプロジェクトは成功している例だといえるだろう。

 

ウルトラプロジェクトは、学科の授業とは別に、ディレクターの対外的な発表のための制作メンバーとして参加させるため、ディレクターにも当然リスクはある。学生も単なる人足では不満が出るだろう。ノウハウやテクニックの開示に加え、なによりプロフェッショナルな現場を体験させることと、学生の時間と労働力の提供が絶妙なバランスで交換される必要があるため、運用には緻密な工夫がいる。当然大人数ではフォローできないため、各プロジェクトの募集人員は通常のゼミより少ない少人数であり、短期集中型になっている。

 

しかし、属人性が高いこのシステムを真似るのは容易ではない。システムであってシステムではないからだ。結局はいかによい人材を集められるかによるだろうが、東京藝大を始め、変わり始めた芸大教育がどのような成果を出せるか注視したい。その成否は飽和し始めているアートプロジェクトにも大きな影響を与えるだろう。