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ビジュアルレビューマガジン

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アートとホテルの実験場「ホテルアンテルーム京都リニューアル+ULTRA x ANTEROOM exhibition 2016」三木学

hotel-anteroom.com

 

さる7月22日(金)に、京都造形芸術大学ウルトラファクトリーと、ホテルアンテルーム京都の共同企画の展覧会「ULTRA x ANTEROOM exhibition 2016」に見に行った。この企画は今年で3回目となり、京都造形芸術大学の共通造形工房ウルトラファクトリーに集うアーティストが、ホテルアンテルーム京都が併設しているギャラリーに一堂に集う展覧会で、ディレクターのヤノベケンジや名和晃平をはじめ、ウルトラファクトリーが運営している実践演習「ウルトラプロジェクト」を牽引するアーティストや、独自で開催しているコンペティション「ウルトラアワード」で選抜されたアーティストの作品を見ることができる。

 

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増田セバスチャン《Colorful Rebellion-Jpanesque-#2》2015

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永瀬正敏《ATOM HELMET in the Past and Future life》シリーズより《love》2016

毎年、ユニークな作品が多いが、今年は昨年、ヤノベケンジとコラボレーションした増田セバスチャンの様々なオブジェをデコレーションしたカラフルな平面作品や、今年、高松市美の展覧会「シネマタイズ」でコラボレーションする俳優で写真家でもある、永瀬正敏のヤノベの「アトムスーツ」をモチーフにした写真作品もあり見所が多い。

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淀川テクニック《九官鳥 NO.1》2015

さらに、今年、ウルトラプロジェクトに参加している、日本画家の山本太郎の小作品や、アートホテルを運営しているクマグスクのインスタレーション、移動舞台車を使って『日輪の翼』の公演を行っているやなぎみわのリトグラフ、廃材を使った淀川テクニックの立体作品、ベネチア・ビエンナーレ国際建築展で特別賞を受賞したドット・アーキテクツの設計図面、小豆島のレジデンス・プロジェクトを牽引するデザイン集団UMAのサイン計画など、年々バラエティが豊かになっている。ウルトラファクトリーも、すでに開設から10年が近づいてきており、多くの実績とネットワークの広がりを感じる。

 

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名和晃平《Sweel-Dear》2010
GALLERY9.5の正面に飾っている。

「ULTRA x ANTEROOM exhibition 2016」のレセプションがあると思って行ったのだが、今回はホテルアンテルーム京都にとっても特別で、大規模なリニューアルオープンをしたお披露目の日にもなっていた。ホテルアンテルーム京都は、元々、予備校の学生寮だったビルを、ホテルとアパートに用途転換しリノベーションしたユニークな施設なのだが、その際、カフェやレストラン、バーに加え、彫刻家、名和晃平率いるクリエイター集団、サンドイッチと共同でGALLERY9.5(9条と10条の間にあるため)の運営をするなど、アートを核にした文化発信も行ってきた。

 

5年目になる今年、67室を増床、128室としてリニューアルオープンするにあたり、「365日アートフェア」をコンセプトに掲げ、6階あるホテルの全階をリニューアルし、各部屋にサンドイッチとギャラリーノマルのディレクションで若手アーティストの作品を常設展示し、さらに、コンセプトルームとして、部屋自体をリノベーションし、名和晃平、蜷川実花、ヤノベケンジ、宮永愛子などの8組のアーティストの世界観を体験できる特別な空間を作り上げた。

 

アートホテルというと奇抜で宿泊に向いていないように思えるが、アーティストの特徴を活かしながら、それぞれが創り出す世界観に包まれるような方法を用いており、コラボレーションは成功しているといえる。特に興味深かったのは、宇加治志帆と矢津義隆率いるクマグスクのコンセプトルームである。

 

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宇加治志帆 666号室コンセプトルーム

 

宇加治志帆は、ウォールペインターでもあり、部屋の壁面に直接ペインティングし、作品と部屋の境界がない。壁面のピンク色、天井の黄色、排気口に塗られた青、カーテンボックスのオレンジなどが、1つの立体的な絵画のようになっており、カラフルでありながら柔らかな色合いが、心を弾ませると同時に落ち着く空間に仕上がっていた。

 

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クマグスク 652号室コンセプトルーム

 

対極的に、自身でも「KYOTO ART HOSTEL Kumagusuku」を運営する矢津義隆は、ホテルの中にホテルを入れ子状に組み込むことをコンセプトに、ホルベインと共同製作をした漆黒のブラックを壁面に塗って、映像鑑賞のための部屋を作り上げている。60inchの巨大モニターには、原初的な映像装置「カメラ・オブスキュラ」の映像を連想させる、反転した映像が流れていた。カメラ・オブスキュラは、暗い部屋の意味であり、暗箱や暗い部屋に小さな穴をあけることで、反対側の面に倒立した映像を写す、カメラの原理となっている装置である。映像鑑賞のための空間を追求し、新しいホテル建設のプロジェクトを始めている矢津義隆にとっては、まさに今回の部屋はコンセプトルームといっていいかもしれない。

 

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名和晃平(彫刻家)、中原典人(建築家)、五十嵐太郎(建築評論家)トークショー

コンセプトルームの作品に加え、70組程度いるアーティストの作品は、すべて購入できることができ、まさに365日アートフェアになっている。名和晃平は、当日開催された、中原典人(建築家)、五十嵐太郎(建築評論家)とのトークショーの中で、ホテルでのアートフェアは近年、日本でも各地で開催されているが、短い期間で行われ、展示品も通常の壁面だけではなく、ベットなどにもところ狭しと置かれているため、最適な環境で鑑賞できているとはいえない。ここではホテルに泊まる中で、じっくりアート作品と向き合うことができる環境を提供したかった、と述べていた。

 

たしかに、作品と昼夜をともにすることで、本当に欲しいと思える作品と出会えることは可能だろう。その代わりに、アートフェアのように、1回で幾つもの部屋に回遊して、作品を鑑賞することはできないが、逆に言えば、アート作品との一期一会の出会いや縁を演出していると言うこともできるだろう。

 

それほど大々的に宣伝されていたとは思えないのだが、物凄い数の人が集まっており、聞くところによると、600人以上の観客が押し寄せていたいうから、今回の試みは成功したといえるだろう。すでに、若手アーティストの作品も、幾つか購入されていたのも印象的であった。アートを購入する場の提供にもなっており、ホテルの魅力向上とアーティストの活動の継続性を与える場として、新しい実験が始まっていることを強く感じる機会となった。