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「ドレスと色の恒常性」三木学

「黒と青」か「白と金」かで、世間を騒がせたThe Dressの件だが未ださまざまな余波を残しているようだ。アンケートによると、「白と金」に見えた人が一番多いとのとだ。僕のように、最初から写真の色に近い「茶と紫」に見えていたのはごく少数ということらしい。驚きである。「色の恒常性」の働きにより、写真の青紫(紫みの青)を、影(陰)と認識した人がそれだけ多かったことになる。
念のため、色彩分析ソフトの結果を公開しておこう。

 

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図1は、写真を系統色名で分析した結果である。抽出される上位の色は「くすんだ紫みの青」「やわらかい紫みの青」など、紫みの青の系統が多いことがわかるだろう。マンセル値で言えば、5PB付近になるが系統色名で言えば「紫みの青」である。一方で茶色の部分は、系統色名で言えば「ごく暗い赤みの黄」「赤みを帯びた黄みの暗い灰色」「暗い灰みの黄」など、無彩色に近い黄色系統の暗い色ということになる。

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図2は、写真の色をマンセル表色系の色空間に分布せた図である。動かせないのでちょっと見にくいかもしれないが、黄色と青紫の補色であることがわかる。f:id:shadowtimes:20150324230308j:plain図3の色相・彩度図は、明度を圧縮させているので、色相の分布がさらにわかりやすい。明らかに5RP付近に固まりがあり、補色である反対の5Y側にも固まりがある。 f:id:shadowtimes:20150324230327j:plain図4は明度・彩度図であるが、低明度・低彩度に黄色の固まりがあり、中明度・中彩度付近に青紫の固まりがあることがわかる。高明度・低彩度の黄色は、背景の光だろう。 これを見れば一目瞭然、青紫(紫みの青)と茶色(暗い黄色)だということがおわかりだろう。

人間は、光源の情報をできるだけ無視して物体本来の色を見ようとする脳の働きがあり、それを「色の恒常性」というわけだが、特に光と関係のある影(陰)を補正しようという働きは強いように思う。だから、青紫を陰の色と判断し、白と金に補正してしまった。実態はまったく逆で、ドレスに黄色みの光源が当たったことにより、濃い青のドレスがくすんだ青紫と茶色になったというわけだ。

人間の脳は物本来の色を同定するために進化しており、それだけにそれを逆手に取られると錯覚を起こすということになる。それにしても、1枚の写真でこれだけの「色の恒常性」の錯覚が起きるのは非常に珍しいで例だろうし、世間の人に「色の恒常性」の認識を深めた一つのエポックと言えるだろう。 

フランスの色景 -写真と色彩を巡る旅

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