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「色弱者への福音か」三木学


Valspar Color For The Colorblind - YouTube

色弱者(色覚異常)を支援するためのサングラスをかけた人が色の違いを初めて知覚する映像が話題を呼んでいる。どのような原理で、色の違いを知覚できるようになったのか。サイトを確認してみた。少し解説してみよう。

Technology | EnChroma

人間の網膜には、錐体細胞と言われる3つの色のセンサーがある。赤錐体(L錐体)、緑錐体(M錐体)、青錐体(S錐体)である。この3つの錐体細胞は、主に吸収する光の波長が異なる。

通常、人間は380nm~780nm程度の電磁波を知覚できる。波長の短い方から紫、青、緑、黄、オレンジ、赤というように分光できる。錐体細胞では、感知できる波長域が分かれているので、波長の長さによって、Long、Middle、Shortの頭文字をとって、L錐体、M錐体、S錐体という。厳密にいえば、感知できるピークの波長は、L錐体が558nm(黄緑色)付近、M錐体が531nm(緑色)付近、S錐体が419nm(紫)付近である。

この3つの錐体細胞によって、可視波長域が3つに分光されることが、3原色からすべての色を作れる根拠にもなっている。ただし、いずれか錐体細胞が正常に働いていない場合、赤から紫までの色のスペクトルの差異を知覚することができない部分が発生する。

特に、一番多い赤緑色覚異常は、L錐体かM錐体のどちらかが光を過剰に吸収するため、色を混同してしまうということが起きる。その理由は、L錐体とM錐体の感知する波長域が似ているということにある。その理由は、L錐体とM錐体は同じ錐体で途中で別れたのが原因のようだ。

そこでこのサングラスでは、L錐体とM錐体の分光感度のオーバーラップを防ぐため、最新の知覚心理学の知見と光学フィルタ技術によって、最もオーバーラップしにくい赤、緑、青を選んで分光するようにしたというわけだ。

サングラスが事前に光を分光してくれているので、その差を感知することができるため色の混同がなくなる、というのがこの原理である。赤緑色覚異常の80%は、オーバーラップが100%未満であるため、かなりの割合で有効な効果を持つということらしい。オーバーラップが100%の場合は残念ながら、このサングラスでも色の違いは知覚できない。

「日本では、男性の約20人に1人、女性の約500人に1人、日本全体では320万人以上いるとされています。これに後天的な色覚の変化を合わせると約500万人という数になります。」

特定非営利活動法人カラーユニバーサルデザイン機構より)

http://www.cudo.jp/colorud/color_vision/color_vision_types

とのことなので、このサングラスが有効に働けば福音と言えるだろう。ちなみに、S錐体の働きの弱い青黄色覚異常は非常にまれであるらしい。

3原色は3つの錐体によって成り立っているが、3原色を混色すればすべての色を作ることができるという基本的な原理を使って、色弱者にも色の違いを認識させるというコロンブスの卵のようなサングラスの登場は驚きである。なぜ今まで誕生してなかったのかと思うくらいであるが、色の知覚はまだまだ謎が多いことを教えられる。

 

 参考文献

 

 

色彩科学入門 ―カラーコーディネーターのための

色彩科学入門 ―カラーコーディネーターのための