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「雪舟と南宋」三木学

www.nhk.or.jp

 

 先日、雪舟が中国で注目されているという番組がやっていた。雪舟は言うまでもない世界の画聖であるが、中国に初めて渡った画家でもある。彼は僧侶でもあるので、画業が突出した僧侶として初めてということになるだろうか。彼が中国に渡ったのは明の時代である。

 

しかし、雪舟の評価は、現在の中国における南宋ブーム、南宋ルネッサンスと関連があるという。南宋とは宋の北部が女真族の国である金に攻められ、南下して作った国である。南宋が元に滅ぼされ、その元を滅ぼして建国されたのが明なので直接の関係はない。

 

しかし、雪舟が評価されているのは、南宋文人画、山水の画風を色濃く残しているからである。もちろん、明に渡ったときに、様々な画風を会得したいうこともあるが、日本には南宋時代の文化がかなり輸入されていたということも大きい。

 

南宋は、平安時代から日宋貿易によって日本と交易があった。栄西道元のような入宋僧によって、禅宗やお茶などの文化もわたってきてるし、南宋禅宗の僧侶が来日している(元と対立したのは、南宋出身の僧侶の進言もあるという説もある)さらに、元に滅ぼされたときに、多くの南宋の文化が海外に散逸したとされている。南宋時代には朱子らによる儒教の再興運動もあり、禅と儒教が鎌倉以降の日本文化に及ぼした影響は大きい。

 

雪舟は、日本と中国の両方から南宋時代の画風を受け継ぎ、発展させたことに、南宋文化を失った中国に評価されているということはあるだろう。南宋は洗練されていた(が喪失した)自国の伝統文化への憧憬と、現代の中国の拝金主義の反省に立ち、再興すべき文化として注目されている。

 

日本は、過去の文化を捨てずに何等かの形で残っているところに特徴がある。捨てられたり断絶している文化もあるが、中国のように王朝が滅んだり、壊滅的になるような歴史はない。雪舟だけではなく、世界的視野でみたとき、日本は思った以上に宝を持っていると思った方がいいだろう。宝に気付かず捨ててしまったり、流出してしまったりすることにもなりかねない。

 

参考文献

海から来た日本史 (KAWADE夢新書)

海から来た日本史 (KAWADE夢新書)

 

 

関連文献

雪舟の「山水長巻」―風景絵巻の世界で遊ぼう (アートセレクション)

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