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「日本・色彩・史」三木学

 

日本の色を染める (岩波新書)

日本の色を染める (岩波新書)

 

 

昨日、日本の伝統的な草木染めの第一人者である、吉岡幸雄さんにお会いする機会を得た。吉岡幸雄さんは、京都の伏見にある工房で、天然染料による染色を行い、美術館での展覧会や寺社仏閣での展示など、様々な場所で発表されている。また、東大寺薬師寺などの古い儀礼の衣装などの復元の仕事などにも携わっている。

 

もともと家業であった染色の仕事を引き続くまで、美術書の編集プロダクション兼出版社をされており、編集者としても豪華本『光琳』など、著名な仕事に携わっている。吉岡さんには、染色の実践家としての側面と、文献や実地調査から古い染色の方法を推測していく研究者の側面があり、その両方が高いレベルで統合されている。両方をここまでのレベルまで極めている方は珍しく、その知識と経験の幅の広さ、深さには驚くばかりであった。

 

吉岡さんの著作では、『日本の色辞典』(紫紅社)と『日本の色を染める』(岩波新書)がその業績を知るのに一番よいだろう。当人ももっとも力を入れた本であるということを述べられていた。

 

『日本の色を染める』では、日本の染色がどのような変遷を経てきたか、文献調査と文献からの再現の経験から、吉岡さんでしか得られない知見を述べていく。日本の色彩体系の通史のような本だといってよい。

 

しかし、天然染料の歴史は、明治になって化学合成染料が大量に日本に輸入されるようになって一つの終焉を迎える。それとともに、世界の中でも極めて洗練された配色体系や色彩感覚を喪失してしまった。『日本の色を染める』も化学染料が入ってきたところまでの内容となっている。

 

その後、日本のファッションや景観色彩は、化学染料や人工顔料に振り回されている面がある。色彩もまた産業革命の一つであり、そのパワーをコントロールできているとは思えない。

 

そもそも、日本の場合、自然や四季と、直接的にあるいは隠喩的に関係している配色体系であるため、化学染料になるとその根本的な部分に断絶が生じてしまう。平安時代の貴族は、色彩を単なる色の刺激として使用してたわけではない。季節を表し、感情を伝える高度なコミュニケーションのツールでもあった。

 

そのような色彩の使い方は、今日の人々にとっては想像もつかないかもしれない。ただ、視認性や誘目性があるということで、原色が多用された色彩環境の中で育っていると、色彩の微妙な変化で季節や感情を表すことは不可能である。

 

天然染料にすべて回帰することは不可能であるし、現実的ではないが、かつてあった色彩文化や色彩感覚、自然観などを少しでも現在に引き継ぐことはできないか?それは今日におけるエネルギー問題とも無関係ではないだろう。吉岡さんの話を聞きながらそう思ったのだった。

 

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参考文献

 

日本の色を染める (岩波新書)

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日本の色辞典

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日本の色を歩く (平凡社新書)

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日本人の愛した色 (新潮選書)

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