「サッカーと日本人の心理学」三木学
昨日のサッカー日本代表の試合は、何本もシュートを打ちながら1本も入らないという、応援している人にとったらもっともイライラする試合だっただろう。その前のイラク戦では4点入れているので、その落差も大きかった。
しかし、シュートを打ちながら入らない、というのは日本代表でも何度も見た風景であり、既視感があるのは否めない。途中でこのまま1点も入らないのではないかと思った人も多いだろう。
さて、なぜ日本代表は肝心な時に決めれないのだろうか?いくらパスが上手くても、シュートが上手くない限り、得点にはならない。ガチガチに守られたときに、パスを通すのは難しく、ドリブルで突破し、強引な角度でもシュートを打って決められるという人材が不可欠であるが、日本代表には長らくそういうストライカーは不在だ。
とはいえ、個人的には日本人のサッカーの問題は、技術的なものではないと考えている。日本人特有の緊張体質や、得点をとることへの無意識の罪悪感が、得点を阻んでいるのではないかと思っている。得点をとることは相手を痛めつけることであり、そこに抵抗を感じているのではないかと思う。それは無意識のレベルなので、当人たちは気づかないと思う。
日本人の緊張体質、リスクを極端に恐れる性格については、遺伝子的な問題であると研究からわかっている。脳科学者の中野信子氏は、朝日新聞のインタビューで以下のように答えている。
――国によって違いますか。
「たんぱく質の遺伝子に注目すると、セロトニンを有効利用しやすい組み合わせを持つ人は、日本人では3%、米国人では32%という研究があります。セロトニンが多いと不安感情が和らぎますので、リスクがあっても怖がらず、挑戦しやすくなります。米国人は日本人の約10倍も挑戦的な人がいると推察できます」
脳から考える男女の差 ねたみ強い男性、知能分布も違う:朝日新聞デジタル
これは男女の脳の差についてのインタビューではあるが、地域によっても遺伝子の割合が違うことを示している。それが、リスクをおかす起業にも影響を与えている可能性が高い。
それはスポーツにも同じことが言える。得点をとるためにはリスクをおかさなければならない。しかし、日本人は大舞台においてパフォーマンスが落ち、リスクをおかさなければならない場面において回避してしまう傾向がある。サッカー日本代表の試合はそれが如実に現れるため、自分自身の臆病さを見せられる気分になるのではないか?
ただ、明治以前までの日本人は、特有の臆病さを身体的な振る舞いによってコントロールしていた節がある。「肚をくくる」などのいわゆる身言葉から、日本人がいかに肚や腰といった身体の下部に意識を持ち、感情をコントロールしていたことがわかる。最近では、「腹が立つ」から、「頭にくる」、「キレる」となっており、恐れや怒りの感情をコントロールできなくなっている可能性がある。
また、日本人はチームプレイが得意だと思っているが、それは誤解の可能性が高い。そもそも、団体競技は明治以前は存在しない。だから、勝つことを目的とした団体での戦略について慣れているわけでも、日常の中で習慣化しているわけでもない。
逆に、団体になることによって、心理状態がお互いに投影されてしまい、緊張が伝播したり、突出してプレイすることをセーブしてしまったりする弊害の方が大きい。日本代表の中でも海外で活躍する選手が、日本代表で上手くプレイすることができないことは、団体の弊害が出ているといってよいだろう。海外のチームでは、それぞれが個人を強く持っているため、心理的なセーブが外れやすい可能性が高い。
どちらにせよ、日本人の持つ遺伝子構成による特有の臆病さ、心理的な抵抗をいかに外すか、日本人だけの団体によってより強固になっているバリアをいかに破ることができるかが実は最大の課題なのではないかと思う。
それは明治以前の日本人がもっていた身体意識や身体の振る舞いの中に、ヒントが隠されているように思う。
参考文献