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消費されないデザイン・デザインの原点「ナガオカケンメイとロングライフデザイン」三木学

www.tv-tokyo.co.jp

昨日の『カンブリア宮殿』では、ナガオカケンメイさんとD&デパートメントが特集されていた。ナガオカケンメイさんの活動はなんとなく気になっており、友人がナガオカさんのメルマガの仕事をしているので、毎週の動向は知っている。

長く続くいいもの日記 | ナガオカケンメイのメール

 

知ってはいるといっても、D&デパートメントに行ったことがなく、結局どういうことをやっているのか明確には理解できていなかったように思う。最近では京都造形芸術大学の先生にもなって、京都のお寺でD&デパートメントを開き、学生に対する実践的な授業も兼ねてやっているというので今度行ってみたい。

 http://www.d-department.com/

 

それはともあれ、昨日の番組は改めて「デザインとは何か?」を考えさせられる内容だった。世間的には、オリンピックのエンブレム問題もあって、みんな考え始めているのかもしれないが、ナガオカさんはグラフィックデザインの最前線で活躍していた10年以上前にすでに、「デザインとは何か?」を考え、ロングライフデザインという概念と、D&デパートメントにいきついた。

 

ロングライフデザインとは、言うなれば、長く使い続けられている良いデザインということである。逆に言えば、長く使い続けられているものは良いデザインだという証拠でもある。しかし、消費社会が加速的に進んだ結果、商品サイクルとともにデザインのサイクルも早くなり、内容はあまり変わらないのにパッケージだけ新しくするような実体をともなわないデザインや、見栄えはいいが使いにくいデザインがあまりに増えてしまった。

 

その事実にナガオカさんが気付いたのは、リサイクルショップで1年前に発売された新作の椅子が、非常に安価で売られておりショックを受けたからだという。つまり、すでに商品価値としては1年もたたないうちになくなってしまったのだ。そのサイクルの速さに恐ろしさを感じ、そうではないデザインのあり方を考え始めたのがD&デパートメントを始めたきっかけただという。

 

だから、D&デパートメントに置いている商品の基準は、長く使われている良いものであったり、地域性のあるものであったり、当時のデパートとは真逆のものであった。それが今や全国に広がっており、デザインや消費のあり方を変えようとしている。変えようとしているといっても本来の姿に戻そうとしていると言った方が近い。

 

そもそも、近代デザインの祖と言われるのはウィリアム・モリスである。モリスは、ビクトリア朝時代に産業化が進んだ結果、質の悪い工業製品が普及したため、生活の質を上げるためのデザインを始めた。それは機械工業に対して、家内制手工業的で、クラフト的なアプローチであるため、彼の会社の名前はアーツ&クラフツと名付けられている。その思想は、バウハウスに引き継がれたが、バウハウスは途中から技術と工業製品との親和性を高め、手工業というより大量生産品における機能美に転換したので、モリスとは違いがある。しかし、長く使われるという要素や価値観は両方に備わっていただろう。

 

D&デパートメントは、その両方の要素がある。モリス的な家内制手工業のような工房で作られているものもあれば、バウハウスに近い小さな工場で作られているものある。生活を潤す装飾性のあるものもあれば、まさに機能美といえる耐久度の高い商品もある。その証拠に、病院で使われているものや業務用の商品など、通常、家庭内で使われていない頑丈で機能な商品を使い方も含めてプレゼンテーションしている。

 

そういう意味では、ナガオカさんのやっていることはデザインの原点であるともいえるし、商品の用途転換の提案でもある。建築においても、もともと使われていた建物とは違う用途に転換しリノベーションすることをコンバージョンというが、デザインのコンバージョンとでもいえるだろう。

 

それが新鮮に感じるのは、売り手中心の消費社会のおかしさに、消費者が気付き始めたからだともいえる。何が良いデザインか判断する基準は難しいが、「長く使われている、愛用されている」という、時間の尺度を持ち込んだのは慧眼だといえよう。それが業務用に多いため用途転換をして家庭で使い方を提案したり、その地域に根付いた商品を売り出すことで、地域の再発見を促すことで地産地消につながったりしている。商品の潜在力を発見し、消費者に提示すること自体がロングライフデザインになっている。

 

アートにおいても、長い尺度で見れば良いものが必ず発見される。デザインの普遍的な価値を持つ要素と、時代の潮流とを上手くミックスしたナガオカさんの活動は本来のデザインの姿を発見し、見直す機会を多くの人に与えているといえるだろう。