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撮影依存症と健忘症を防ぐか?「制限するカメラ(Camera Restrica)」三木学

wired.jp

 

 

デジタルカメラスマートフォンが普及し、ほとんどの人が日々たくさんの写真を撮影している。特に旅行中はカメラを手放せない。少しでもいい風景があれば、カメラやスマートフォンでどんどん撮影し、インスタグラムやフェイスブックにUPすることもあるだろう。しかし、ほんどの写真は見られないまま、ハードディスクに溜まっていく。

 

このようなことが可能になったのは、フィルムカメラのように、フィルム代や現像代がかからないからであり、わざわざカメラをもって行かなくても、スマートフォン内臓のカメラの精度がどんどん上がっているからでもある。どうせ無料なのだから、撮影しておかなければ損だとばかりにみんな撮影に夢中になる。これは一種の撮影依存症だといっていいだろう。

 

この問題の一つの解決策として、ドイツのデザイナー、フィリップ・シュミットは、人気のある撮影スポットでは、物理的に撮影できない制限をするカメラを制作した。写真共有サービスのFlickrPanoramioGPSメタデータを使い、自分の位置から約35m四方で撮影された写真が35枚を超えているとシャッターを押せなくなるばかりか、ファインダーもシャットオフされるという。

 

つまり、人気の撮影スポットでは凡庸な写真しか撮れないからやめておけ、ということである。しかし、このアイディアについては、多くの人から反感をかっているという。一つは大きなお世話ということもあるだろうし、旅行ガイドなどでは撮影スポットにわざわざ印をつけていることもあるので、その場所でカメラを使えなくなったら意味がない。カメラを撮影するということも、ある種の観光の一つの儀礼になっているからだ。また、プロなら人気のある撮影スポットでも洗練された写真を撮ることができるかもしれない。

 

とはいえ、撮影しても二度と見ない写真が増えていくのも問題ではある。後でアルバムを作ろうとでもしようものなら、写真を選ぶだけでも投げたしたくなるだろう。フィルム時代は実は、撮影時に何を何枚撮るべきかということを、事前に編集していたといえる。その編集作業を後回しにしたつけは、撮影後にやってくるというわけだ。

 

このカメラのアイディアは、かなり強引で洗練されていないように見えるが、フィルム時代に物理的制約から行っていた撮影時の編集作業をする役割にはなっている。記事にも書かれているように、撮影位置から撮影するかどうかを判断するのではなく、画像認識などを使って、内容の良し悪しまで事前にレコメンドしてくれるようになるともっと事前編集のコンセプトは活きてくるだろう。

 

また、カメラのアドバイスに従って、撮らないというのも一つの選択肢かもしれない。あまり意識せずに撮影すると、長期記憶にならず、忘れてしまうということが研究からわかってきている。

www.cnn.co.jp

どうせ後で見ない写真であれば、しっかりカメラではなく、目に焼き付けておいた方がよい。カメラを撮っているという安心感で、注意が薄まり記憶に定着されないのだ。つまり、我々は記録に残すために撮影はしているものの、結果的には記憶を消していっているということなのだ。

 

撮影することもよりもはるかに大事なことは覚えておくことだろう。その場所の湿度や温度なども含めた空気感、感情など…。もしカメラがそれを助けるのではなく、邪魔しているとしたら、カメラの在り方を変えるのは一つの手なのかもしれない。

 

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