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説明されないエンブレム「東京五輪エンブレム応募開始-東京オリンピックとデザインの行方(14)」三木学

 

紋章の歴史―ヨーロッパの色とかたち (「知の再発見」双書)

紋章の歴史―ヨーロッパの色とかたち (「知の再発見」双書)

 

 

tokyo2020.jp

12月7日(月)まで。

 

ついにすったもんだした東京五輪エンブレムの新しい公募の受付がウェブサイトを通して始まったようだ。以前指摘したように、白紙撤回された第一回目の閉鎖的な公募と審査過程はずいぶん改善されたように思える。ただ、ウェブサイトのみの応募は実質上、ある程度のビジュアルデザインのソフトウェアの技能やネット環境を有しているものに限定していることになり、すべての国民に開かれているとは言い難い。

 

審査時間の問題もあり、やむを得ないのかもしれないが、スマホしか持っていない若者や、デジタルに弱い老人を排除していることになり、今後、開かれたコンペをする際の改善点となるだろう。今回、起きた諸問題が、デジタルによる効率化が推し進められ、オリジナリティやモラルが崩壊したことによって起きたことが大きな原因の一つである、ということついてもう少し真摯に向き合い、見直すべきだったのではないか、ということは指摘しておいてもいいだろう。

 

さて、当サイトには、最近「エンブレムとは」で検索してくる人がとても多い。理由はエンブレムについて記事を書いたことがあるからであるが、同時にそもそもエンブレムのデザインについて応募しておきながら、エンブレムとは一体何なのか説明が一切なされていないからである。

shadowtimes.hatenablog.com

 

応募要領を見ても、エンブレムのデザインのキーワードやデザインの仕様、規約などについての説明はあるが、エンブレムそのもの、についての説明が書かれていない。

http://emblem.tokyo2020.jp/jp/guidelines_JP.pdf

 

以前書いた記事のように、今回のエンブレム騒動で初めて、オリンピックの大会ごとのマークのことをエンブレムということを知った人が大半だろうし、そもそもエンブレムについて詳しく知っていた人はほとんどいないのではないだろうか?詳細は以前書いた記事を読んでほしいが、日本人にとってはあまり馴染みのない言葉であり、文化である。(家紋との共通性は記事を参照)

 

記事ではフランスの著名な紋章学者、ミシェル・パストゥローの著書を引用して説明したのだが、西洋のエンブレムの伝統、そして学問体系でもある紋章学をかじったものでなければ(そのような日本人はかなり少ないが…)、エンブレムが何かは説明ができないだろう。もちろん、説明されていない人間はわからないだろう。

 

だから、これから東京五輪エンブレムをデザインしようとしている人は、自力で検索をしてエンブレムとはいったい何なのか?なぜ大会ごとのマークはエンブレムと呼ばれるのか、調べることになる。デザインをしようとする人間ならば、そういう起源を調べるのは当然と言えば当然かもしれないが、お題を出している委員会や審査委員にはそのような知見がある人は当然いる(と思う)ので、開かれたデザインコンペならば、エンブレムについて解説することは、必要不可欠な行為なのではないかと思うのだがどうなのだろうか?

 

結局、エンブレムというお題を出している人間が、エンブレムのことをよくわからず、またデザインしている人間もわかってないという状況になっていたとしたら、何をもって審査するのか、審査されるのかわからなくなってくる。各界の識者に対するブリーフィングも含めて、エンブレムとは何か?オリンピックにおけるエンブレムとはどういう位置づけなのか?どういう役割を果たすのか?もう少し丁寧な説明がされるべきだったかもしれない。

 

僕の解説記事のすべてが正しいわけではないので、公式見解があれば、応募するデザイナーはより深く咀嚼し、デザインに反映することができるだろう。必然的に質も上がると思われる。そういう意味では、紋章学を修めた研究者も、審査委員に入れてもよかったかもしれない。それも今後の課題となるのかもしれないが、念のため記しておきたい。