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屋根とスタンドを巡って「新国立競技場再コンペ(3)」三木学

mainichi.jp

ついに新国立競技場の再コンペの結果が発表された。隈研吾氏らによるA案が僅差で採択されたという。しかし、詳しくみてみたら、建築計画や構造計画など、設計に関わる部分は、B案がA案を圧倒しており、工期やコストに関わる部分で、A案が選ばれたことがわかる。

 

B案のデザインを行った、伊東豊雄氏はその結果に納得がいかないらしく審査に関して疑義を訴えている。工期の採点がそこまで大きな差があるのか、というのが1点であろう。そして、選ばれたB案のスタンドの設計が、ザハの案にそっくりというのが最大のポイントである。そもそもザハの案のスタンド部分は、A案の施工を担当する大成建設が請け負う予定だったので、ザハの案を微修正した可能性はある。

 

ザハもまたそのことに対して自分たちの案に似ている、そして知的財産権は自分たちにあるとコメントしている。建築図面に知的財産権、ここでは主に著作権が認められるかどうかは内容によって判断が分かれる。創作性があれば著作権はあるということになる。

新国立競技場に対するザハ氏の主張には根拠があるのか?(栗原潔) - 個人 - Yahoo!ニュース

 

争われるのが、スタンド部分であるとしたら、創作性が認められるかどうか、裁判になってみないとわからないだろうが、訴訟される可能性も、敗訴する可能性もゼロではない。また、ザハから図面を含めた情報やノウハウを受ける際、秘密保持契約( Non-Disclosure Agreement )を結んでいたとしたら、契約違反による損害賠償請求を受ける可能性もあるだろう。

大きく言えば、A案は主にスタンドをザハの案を基盤に、外壁と屋根を工夫したもので、B案は主にスタンドを旧国立競技場を基盤に、外壁と屋根を工夫したものだとまとめられるだろう。そして、屋根の存在感を大きくしたのがA案で、小さくしたのがB案ということになる。

 

屋根というよりは、庇の機能だけを外側でなく、内側に突き出した形であるといえる。つまり傘を反転したようなものだといっていいだろう。例えるなら、B案は反転した和傘、A案は反転したビニール傘といったところだろうか?

 

どちらにせよ、審査基準に、知的財産権に関するリスクが入っておらず、審査がなされてなかったのは失敗だったといえる。専門家の中に知財専門の弁護士は入れるべきだっただろう。これではエンブレムの二の舞(三の舞?)になりかねない。

 

B案の決定が変わらないにせよ、ザハが実質出られない形で決まった再コンペに、ザハの案が入っているのは訴訟の種になりかねない。もしそれが事実であるとしたら、責任者は早急にザハに謝罪し、知的財産権の使用許諾契約を結ぶ方がいいだろう。

 

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