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デザインを学習せよ「東京オリンピックとデザインの行方(18)」三木学

www.huffingtonpost.jp

すったもんだした東京五輪エンブレムだが、白紙撤回された後、審査資格を大幅に緩和して一般公募され、21人のエンブレム委員によって4案に絞られこの度公開された。

 

前回の審査で問題となったのは、デザイン業界だけで閉じられた閉鎖性と、審査の不透明性であり、今回はできるだけ広く門戸が開かれ、審査過程をできるだけ公開するなど透明性が図られている。最終案を委員会で採択する前に、国民に発表されたのもその一環である。国民投票も想定したらしいが、それは実質、期間的にも整備的にも不可能なので、できるだけ参考にする、という妥協点に落ち着いたようだ。

 

かなり以前に僕が指摘していた方法に近くなったが、公平性のある審査となれば現実的にはこの程度になるだろう。

盗作疑惑をいかに防ぐか?「東京オリンピックとデザインの行方(2)」三木学 - shadowtimesβ

 

さて、結果選ばれた4案だが、個人的な感想としては無難なものが選ばれたというくらいだろうか?正直言って、デザイナーに求められるのは、クライアントの要望以上の解答であり、選ばれた候補だけみると、模範解答が並べられているという印象である。とはいえ、それはこのようなプロセスを知っているから言えることであり、1案だけ決められていたら、そういうものかと意識しなかったかもしれない。そういう意味ではプロセスまで含めて、多くの批評の目にさらされたことはよいことだろう。

 

とはいえ、還元主義的なモダンデザインを突き詰めたものはないかもしれないが、やや懐古趣味でその先を目指したような3次元デザインなどの新しい試みが一つも候補にないことは気になる。もちろん、試みた応募者もいたのだと思うが、審査の過程で落されたのだろう。このような審査過程で多くの支持を得る必要があるデザインは、大胆で飛び出た案は落される傾向がある。それがデザインを選択することの難しいところであるし、ビジョンのある経営者などが、1人で選ぶ方が大胆で印象に残るものが選ばれる理由だろう。

 

ともあれ、今回の試みは集合知的な長所と短所が、国民を巻き込んで視覚化されたような壮大な実験のようなものであり、デザインにとって貴重な機会になったことは間違いない。審査システムから選ばれたデザインまで、賛否両論あるだろうが、プロやアマチュア、デザインを享受する人々まで、一つの目安にはなっただろう。

 

ただ、東京五輪エンブレムという一つのお題に対して集まった、1万4599作品のデザインをそのままにしとくというはもったいない。もちろん著作権問題などクリアしなければならないだろうが、今流行りの人工知能(AI)の研究者に研究素材として活用してもらって、新たなデザインを機械学習で制作してもらうのはどうだろうか?

 

おそらく、みんなが考えている東京五輪エンブレムの集合知みたいなものがさらに可視化されるだろう。当然、現在の案よりもより没個性になる可能性が高いが、なんとなく腑に落ちる作品が出来るのではないか。また、パラメーターを変えれば、やや古典的なデザインから、先端的なデザインまで、幾つか種類が作られるだろう。それを第5の候補にすれば選ばれる可能性はあるだろうか?

 

もしかして、将来的にはそのようなアルゴリズミック・デザインが主流になるかもしれない。

 

参考文献