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ビジュアルレビューマガジン

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「Hotel's Window」勝又公仁彦(shadowtimes2012/10/11 Vol.0 創刊号前半)

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記念すべき初回ではあるが、たまたま9月1日より私が関わる二つの展覧会が開催されているのでご紹介したい。まずは作品を出品するグループ展『Over the reality』について。
会場は清澄白河のギャラリー・テラ・トーキョー。清澄公園近く、小山登美夫ギャラリーやタカイシイギャラリー、シューゴアーツといったギャラリーと同じ丸八倉庫ビルに今年移転してきた。
出品作家は私のほかに、新井卓、Ruud Van Empel、廣瀬遥果のお三方である。初日9月1日土曜日の18時からは私を含む出品作家の一部と東京国立近代美術館の主任研究員増田玲さんなどによるトークイベントが開催された。
増田さんは2002年に東京国立近代美術館で開催された「写真の現在2 — サイト 場所と光景」展に私と港さんの作品を取り上げた学芸員でもある。

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“触知論” 2012年7月4日 東京都江東区_IMG_0628_2
清澄白河駅からギャラリーに至る途中の路上にて。江戸っ子らしい?シャレの効いた文句が)

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“触知論” 2012年7月4日 東京都江東区_IMG_0633_2
清澄庭園前庭にて)

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“触知論” 2012年7月4日 東京都江東区_IMG_0635_2
(周辺地図を発見。少し歩けば芭蕉庵など江戸を感じられる場所がそこここに。江戸東京博物館東京都現代美術館も!)

トークショーの模様や展覧会については、次回以降のこのメルマガでまた紹介したいが、作品についてはぜひ直接ギャラリーにてご覧頂きたく思う。さて、僕が出品を依頼された作品シリーズについて少し触れよう。
今回、ギャラリーディレクターから出品を依頼されたのは「Hotel’s Window」というシリーズの作品だ。タイトルそのままにホテルの窓を撮影した作品である。これは2005年から制作が開始され、今年6月の表参道画廊での個展(この展覧会の企画者も増田さんだ)の際に初めてプリントを展示した。

f:id:shadowtimes:20150609105712j:plain個展「dimensions」展示風景。左から「Hotel’s Window」「Skyline」「Screen」の各シリーズ(表参道画廊、東京、2012年6月)

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個展「dimensions」展示風景。左から「cities on the move」「Hotel’s Window」「Skyline」の各シリーズ(表参道画廊、東京、2012年6月)

 

その作品をご覧頂いての出品依頼である。今、初めてプリントを、と書いたが、実はプリントではなく印刷物としては数年前よりJALホテルズの館内誌「FOUNTAINS」で連載している。
これは「FOUNTAINS」の編集者より、誌面を一新するにあたり何か連載を、との依頼があり、実はホテルで撮影している作品がある、と見せたところ、それが採用されたという経緯がある。連載ではホテルの場所に合わせたポエムちっくなテキストも書くのだが、回が進むとこれがなかなか難しくなってくる。
興味のある方は以下のリンクをどうぞ。電子マガジンになっていて中身が全部見られるようになっています。本誌はJALホテルズグループ関連ホテルにて、ご覧下さい。

http://www.jalhotels.com/jp/fountains/

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Hotel's Window” 2012 年1月16日 ホテル日航豊橋2516室、愛知県豊橋市藤沢町

 


さて、作品の説明に戻る。私は大概の作品シリーズについて、簡単なテキストやメモをまとめてある。この作品シリーズに関しても同様なのでここで紹介しよう。

 

Hotel’s Window 光差す部屋

イタリアでの旅は「カメラ」の中で眠る旅だ。
客室を「カメラ」と呼ぶ国で写真機はマキナという。写真機としてのカメラの前身は 「暗い部屋」を意味する「カメラ・オブスキュラ」だ。
部屋に穿たれた窓から一筋の光が射すとき、外界の映像が揺らめく。
それはカメラに差した世界の光。
人々が喧噪から離れ、安息を得、心落ち着かせ、愛を交わし、夢見る、暗い部屋。

それこそが映像の胚胎する場所なのだ。
世界の光、それは身体を貫き、心を照らすだろう。
(2005年にイタリアで開始され、その後諸国で撮影継続中。)

 

それまでも僕はホテルの窓から外の景色を撮影することが多かった。そ れは日常では得られない視点からの都市風景が得られる場所であるからだ。しかし、納得のいくものが撮れないのである。いわく「見ていたものと違う」のであ る。もちろん写真に「見ているもの」がそのまま写らないことや、「見ているもの」を写すことが自分の写真の目的ではないことは承知している。

 

そしてほとんどの写真家は自分が見たものよりも、カメラが写し止めた もののほうに関心や信頼を寄せるものなのであるから、写っていたものが「見ていたものと違う」のは当然のことなのである。そこを敢えて言うのは、写された ものと自分がその空間で感じていたことの違和が比較的大きかったためであろう。何かが違う(しかも決定的に)という居心地の悪い感覚だ。

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“Phases s.v.” 2004年8月22日 沖縄県那覇市松尾_n1655
(沖縄のホテル(ホテル日光)からの写真を1枚。これはこれで、夜景の作品シリーズの一枚としては気に入っている。沖縄県立美術館博物館にも収蔵された作品)

 

ローマに着いた最初の夜、同行者は体調不良に苦しみ(後日インフルエ ンザと診断された)、部屋に着くや否やベッドに潜り込んでしまった。僕は眺めを確認したかったのと、眠りの邪魔にならない程度の明るさが欲しくてカーテン を開け、窓際を離れて疲れた身体をソファにもたれかけさせた。

 

すると昼間歩いた埃っぽいローマの町の屋根と明るく輝く二つの星が見えた。日本では見かけない背の高い縦長の窓から差してくる街の灯りは、壁紙の大振りな文様を浮かび上がらせた。

 

建物のレンガの色を反射した暖かみのある色の光だった。僕はしばらくその光景を見つめながら、部屋の暗さに眼が慣れてきているのを感じていた。そしてそのまま、部屋の内側も写しながら窓とその向こうの景色を撮ってみようと思い、荷物の中から三脚を取り出したのだった。

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Hotel's Window” 2005年3月10日Hotel Veneto 510号室、ローマ、イタリア

部屋の撮影が終わった後、僕は三脚を担ぎ外に出た。石畳を踏みながら夜の街を撮影していると、徐々に身体に力が戻って来るのを感じた。ホテルに戻り、フロントを通るとき、眼の端がCameraという文字を捉えた。

それは非常口を示す館内地図で、各部屋番号の上にはCamera と書かれていた。そうだ、イタリアでは部屋のことをカメラと呼ぶと聞いたことがあった(それは以前に受けた畠山直哉さんの授業でのことではなかったかと数 年後に思い至った)。それが実際にありありと文字となって表記されている。写真とは離れた日常の単語として。

僕は先ほど「写真機としてのカメラ」を据えて撮影した部屋そのものがCameraと呼ばれることに軽い眩暈を覚えた。

それは写真の、いやその前身の視覚装置としてのカメラ・オブスキュラ(暗い部屋を意味する)を通して、また、それを生み出すに至るものの見方を発明した、ルネサンス期のイタリア人の世界把握の方法と意志が、その国の歴史ある街の一角にいる自分の身体を通して、現代にまで至っているという感覚を生々しく覚えたからだった。

それはちょうど暗い部屋に穿たれた針穴から一筋の光がカメラの内に差し込み、拡散しながらスクリーンに向けて直進していく様を想わせた。

いつしかカメラは部屋を離れ、旅人とともに世界を巡り、認識と記憶とを助け、再構成するための暗箱となった。その旅人が心身を休め、眠りにつき、夢見る場所もまたCameraの中なのだ。

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Hotel's Window” 2009年5月24日-25日 横浜ベイシェラトン ホテル&タワー1219号室、横浜市西区北幸


さて、それ以上のことは書き出すと長くなってしまうのでまたの機会に 譲りたいと思う。そのような契機で始まったこのシリーズ、上のコンセプトメモをご再読頂けるとまた新たにお気づき頂くこともあるかもしれない。このシリー ズの作品が展示されるニ回目の展覧会なので是非是非ご高覧を賜りたい。

 

「OVER THE REALITY」展
会期:2012年09月01日 ~ 2012年10月06日
12:00から19:00まで 月曜・日曜・祝祭日休館
会場:ギャラリー・テラ・トーキョー
〒135-0024 東京都江東区清澄1-3-2-6F(丸八倉庫
電話: 03-6681-8354 ファックス: 03-6689-3025
web site : http://www.galleryterratokyo.jp
※展覧会は終了しています。