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ビジュアルレビューマガジン

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美術館で街を作る「兵庫県立美術館とミュージアムロード」三木学

アート

先日、クレー展を兵庫県立美術館に見に行った。兵庫県立美術館といえば、安藤忠雄の建築で知られているが、いかんせん、アクセスが悪い。最寄りの駅は、阪神電鉄岩屋駅になるが、関西圏の住人でも、岩屋駅と聞いてパッと地理が思い浮かぶ人は少ないかもしれない。

 

特急、急行も止まらず、普通しか止まらないのでアクセスが決していいとは言えないだろう。梅田からだと特急で御影までいって、普通に乗り換えるか、神戸三宮までいって、2駅戻るかしなければならない。

 

もともと兵庫県立美術館の前身は、1970年に村野藤吾が設計した兵庫県立近代美術館であり、阪急王子公園駅が最寄りの駅だった。当然、王子動物園や神戸文学館など、文化施設が集積していた地域であり、街全体の雰囲気を構成する重要な要素として認識されていた。当時なら最寄り駅もすぐ思いついただろう。

 

しかし、兵庫県立近代美術館は阪神大震災で被災を受けたので、耐震補強工事なども必要だったこともあり、将来を見越して2002年に兵庫県立美術館としてコレクションも含めて継承されることになった。旧兵庫県立美術館は、兵庫県立美術館王子分館となり、その後、本館は兵庫県立美術館 原田の森ギャラリー、西館は改修工事を経て、2012年に横尾忠則現代美術館としてオープンした。

 

そういう経緯もあって、兵庫県立美術館は、兵庫県立近代美術館の歴史と比べればはるかに短く、県民や関西圏の人々の親しみもまだまだ薄かった。木村重信、中原佑介という名だたる美術評論家が館長に就任してきたが、美術館を通して街づくりをするという路線を敷き、改革をしてきたのは現館長の蓑豊氏だろう。

 

蓑豊氏は、地元から愛されているのみならず、世界中のアートファンを虜にしている金沢21世紀美術館の初代館長であり、大阪市立美術館館長時代は、フェルメール展で《真珠の耳飾りの少女(青いターバンの少女)》を初来日させ、来場記録を塗り替えるなど、美術館と街づくりに関して言えば、日本で一番の実績を持つと言っても過言ではない。

 

蓑氏はまず、兵庫県立美術館から神戸市立王子動物園までの道路を「ミュージアムロード」として連結させ、場所もイメージも分断していた、旧兵庫県立近代美術館付近の文化エリアと兵庫県立美術館の間を補間・補強する試みを行う。そして、周辺文化施設のスタンプラリーやセット券、アートマーケットなど道沿いの関連イベントなどを行ってきた。

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兵庫県立美術館とフロレンティン・ホフマン「美カエル」(愛称)2011

 

なかでも、安藤忠雄が設計した格子状のコンクリード造でどちらかというとクールなイメージのある兵庫県立美術館の屋上に、シンボルとなるようなカエルのオブジェを設置したことは大きい。安藤氏がどう思ったのかわからないが、幾何学的で顔なかった美術館にお面をつけたような方法といえるだろう。

 

赤、白、緑、黄色に配色され、三角帽子をかぶったカエルの作品をデザインしたのは、オランダのアーティスト、フロレンティン・ホフマン氏であり、世界中の川、海などの水上に浮く、巨大なアヒル 《ラバー・ダック》といえば、一度は目にしたことがあるかもしれない。特に大阪では、中之島に毎年やってくるマスコットキャラクターのようになっているので、より親しみが湧くだろう。その作者がホフマン氏であり、蓑氏はその人気に目つけた。

 

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阪神岩屋駅

 

そして、マイナーだった阪神岩屋駅に(兵庫県立美術館前)と駅名の補足を入れることを要請し、駅自体をホフマンのカエルのデザインに合わせて、赤、白、緑、黄色で配色し、子供たちがカエルのイラストを描くプロジェクトを行った。それらの試みの成果もあり、阪神大震災後に整備され、どちらかといえば、白紙に近いイメージだった海岸までのエリアが、美術館を中心に少しずつ色がつきはじめ、パブリックイメージも徐々に浸透しているといえる。

 

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椿昇《PEASE CRACKER》2014

 

近年では、ミュージアムロード沿いにパブリック・アートの設置を積極的に行っており、椿昇やヤノベケンジなど、関西に縁のある著名なアーティストの作品が、美術館周辺や美術館までの道のりを盛り立てている。筆者が、岩屋駅から美術館に行く途中に雨が降ったこともあり、赤と緑の原色に塗られた「ジャックと豆の木」に出て来る巨大なマメのような椿昇氏の作品で雨宿りをしている親子を発見した。その光景は見ていて微笑ましいものであり、椿昇の代表作《フレッシュ・ガソリン》を想起させる形状や極彩色の作品が街中に普通にあり、溶け込んでいる様子は感慨深いものがあった。

 

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ヤノベケンジ《サン・シスター》2015 「なぎさ」(愛称)

 

ヤノベケンジが震災20年の節目として制作した、《サン・シスター》はYahoo!ニュースののトップページも飾ったのでネットで見た人もいるかもしれない。先日、愛称の公募が行われ、「なぎさ」ちゃんという、なぎさ公園やなぎさ小学校がある地域に合った名称が決定し住民への浸透も広がっている。

 

近年、地域型アートプロジェクトの流行で、美術館ではない場所での展覧会が多くなっている。しかし、地域おこしや街づくりという観点でも、美術館があることで有効な点は多い。瀬戸内国際芸術祭の原点ともいえる直島にある安藤忠雄設計の地中美術館も地域おこしのシンボルとなっている。

 

野外や美術館ではない空家などの施設での現代アートの展覧会は今後も積極的に行うべきだろう。しかし、同時に美術館を持っている場所では、美術館を中心とした街づくりはもっと積極的に検討されるべきだろう。東京都現代美術館が設立されたことで、白河清澄界隈の街づくりが活性化したという例もある。兵庫県立美術館の試みも今度どのように展開していくのか注目である。全国の美術館を中心とした街づくりのよい範例になる可能性を秘めている。

 

話を元に戻せば、このような動きを加速させるためにも、阪神電鉄には、是非、土日くらいは特急や快速急行を止まるようにしてほしいところだ。

 

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