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ビジュアルレビューマガジン

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創造の旅の幕開け「あいちトリエンナーレ2016記者発表会」三木学

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あいちトリエンナーレ2016記者発表会 壇上から説明する港千尋芸術監督

あいちトリエンナーレ2016

先日、国立国際美術館(大阪)であいちトリエンナーレ2016の記者発表会が開催された。記者発表会は、愛知、東京に続いて、3回目となる。現在、日本各地で開催されいている国際展や芸術祭の中で、主要都市で記者会見する規模のものは数少ない。あいちトリエンナーレは国内最大級とうたっているが、瀬戸内国際芸術祭や越後妻有大地の芸術祭のような地域型ではなく、都市型の芸術祭では間違いなく日本で有数の規模だろう。

 

あいちトリエンナーレは、第1回目2010年の「都市の祝祭」(芸術監督:建畠晢)、第2回目2013年の「揺れる大地」(芸術監督:五十嵐太郎)と芸術監督の明確なテーマの元にキュレーションが行われることでも知られている。今回は、港千尋さんが芸術監督となって、「虹のキャラバンサライ 創造する人間の旅」というテーマが打ち出されている。

 

キャラバンサライとは、シルクロードなどの道中にあった旅の宿(隊商宿)である。テーマには、港千尋さんが旅における異文化接触の中で創造の糧を得てきた実感が反映されている。また、人間は創造する動物(Homo Faber)である、と規定し、トリエンナーレはその象徴であるアーティストの旅が集う宿という位置づけになっているといえる。

 

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来場していた参加アーティスト 左から勝又公仁彦、佐々木愛、港千尋(芸術監督)九門剛史

記者会見では、ようやく明らかになった全貌が紹介された。国内最大級と銘打つだけあって、その規模の大きさと分野の広さも破格である。まずは、現代美術は80組のアーティストが参加し、愛知芸術文化センターを中心に、名古屋、豊崎、岡崎市内の3カ所のまちなかで展開される。現代美術の中には、映像プログラムも用意されている。

 

また、他の国際展にはあまり見られない、舞台芸術があり、パフォーミングアーツやプロデュースオペラがある。さらに普及・教育のプログラムや、大学などとの連携事業も充実している。

 

さらに、今回のあいちトリエンナーレの特徴は、以下のように12点ほど挙げられている。

1、参加アーティストと企画体制の地域的な拡がり
2、従来のアートの枠組みを越境
3、グループとして多様な活動をするアーティストを紹介
4、文化人類学的視点
5、国際展のなかの小企画「コラムプロジェクト」
6、先端的ものづくりプロジェクト「ツクロッカ」
7、舞台芸術公演が集中する「レインボーウィークス」
8、世界的才能が創り出すオペラ「魔笛」
9、ダミコルームとキャラヴァファクトリー
10、愛知とブラジルの関わりを意識した展開
11、豊橋市と岡崎市のまちなか展開
12、名古屋市内の新たな展示会場

 

これらの12点の特徴は、独立しているわけではなく、テーマに沿って、相互に関連がある。特に興味深いのは、西欧出身者や西欧を拠点としているキュレーターではなく、ブラジル拠点のダニエラ・カストロと、トルコ拠点のゼイネップ・オズを招聘することで、北半球と南半球の文明の交差点の視点から、世界中のアーティストがピックアップされていることだろう。港さん自身、初めて知るアーティストが多いとのことで、当然、日本で作品が紹介されることが今回が初めてのアーティストが多数参加している。つまり、あいちトリエンナーレ自体がアートを通じて、異文化の価値観を知る貴重な機会になっているのである。もちろん、そこには世界共通の課題である、グローバリズムの歪みも垣間見られるだろう。

 

また、港さん自身が、映像文化人類学者ということもあり、文化人類学的視点が導入されている。洞窟壁画などの人類太古の創作を見直すとともに、近年の現代美術の潮流でもある、文化人類学的アプローチを援用する、アーティストが多数含まれている。

 

ハーバード大学の美学と民族誌学とのコラボーションによるラボラトリー、ハーバード大学感覚民族誌学ラボなどの参加はその顕著な例だろう。ハーバード大学感覚民族誌学ラボは、フィールドワークを元に、アナログ、デジタルメディアを組み合わせた研究プロジェクトとして、映画、ヴィデオアート、音響、インスタレーション作品などを発表している。

 

一方で、最先端の創作として、3Dプリンターなどのデジタルファブリケーションの実践を行っているアーティストたちを招聘し、一般向けのワークショップなど継続的に行う。最古と最新、過去、現在、未来の創造の歴史もまた「創造する人間の旅」として上手くつなげているように思える。

 

第1回目の草間彌生や第2回目のヤノベケンジ、奈良美智のような明らかな現代美術のスターは不在である。しかし、みんなが知っているスターを招聘するのではなく、今までまったく知らなかった(未知の)、地球の裏側で活躍している、様々なタイプのアーティストの作品と出会う機会を提供するだろう。

 

今回のコンセプト文の中に以下のような一節がある。

3回目となるあいちトリエンナーレは、創造しながら旅(キャラヴァン)を続ける人間をテーマにしたい。それは常に未知への、好奇心による無限の探求のかたちをとる。

(中略)

芸術そのものが未知への旅である。同様に、人間の営みそのものが未知への旅である。そして、芸術祭のかたちもひとつの旅だ。それはたくさんの人が集い、あらゆるボーダーを越え、来るべき響きとかたちを求める探究のキャラヴァンである。わたしたちの時代の「ゴールデンレコード」はわたしたちで作ろう。展覧会、舞台芸術をはじめ、さまざまな好奇心をもった人が集う多彩なイヴェントが行われる場所が、わたしたちの「キャラヴァンサライ」、つまり、旅の疲れを癒しつつも、次なる未知への旅への英気を養う家(サライ)となるのだ。
今、無限の想像力を結集して創造の旅(キャラヴァン)が出発する。

 

つまり、人間がなぜ危険を冒してまで旅に出るのか?それは未知への好奇心であることが明確に宣言されているのである。そして、芸術や人間の営みそのものが未知の旅と似ているというわけだ。今回の芸術祭は、未知の作品や出来事に溢れているだろう。既知の作品を訪ねるようなものでは決してないが、人々の好奇心を満たすためキャラヴァンが集っていることは間違いなさそうである。

 

ところで、12点の特徴の中に、コラムプロジェクトというものがある。芸術祭の中の小企画という位置づけであるが、「コラム(column)」とは古代ギリシアやローマなどの古典建築における石の列柱が語原であり、全体のテーマを支え、補完する役割を持つ。

 

勝又公仁彦さんは、コラムプロジェクトの中でも注目されている、デジタル技術の発達により、変貌の激しい写真表現の展覧会『トランスディメンション-イメージの未来形』に参加予定である。

 

また、同じくコラムプロジェクトで、参加アーティストが創作した色名から、あいちトリエンナーレ2016独自のカラーチャートを作成するプロジェクト『アーティストの虹ー色景』に、僕も参加する予定である。「色彩地図」によって、様々な旅の無意識の繋がりを示し、好奇心を刺激する彩りを与えることに挑戦したい。

 

ともかくも、未知との遭遇にどこまで期待感をもたせられるかが開催までの勝負になりそうだ。その準備は着々と進んでいる。

 

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 記者会見終了後の打合せ@グラフ