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「色名と五感 」三木学

 

フランスの色景 -写真と色彩を巡る旅

フランスの色景 -写真と色彩を巡る旅

 

 

「フランスの色景」に掲載しているフランスの伝統色名は、港千尋さんがフランス全土で撮影した写真から、画像解析で直接的に色名を抽出したものである。画像に含まれる割合の上位から分析結果を並べ最上位の色名で写真を分類している。

ややこしいのは、フランスの伝統色名が、食べ物、飲み物などが多くて、食べ物によって、写真を分類しているように見えることだ。フランス人は、色名を呼ぶとき、脳の中では味覚や嗅覚が働いていることだろう。日本の伝統色名に食べ物はほとんどないから想像しにくいかもしれない。

色は、西洋中世社会においてはある程度、厳密な象徴体系を持っており、混色することも許されなかったが、近代になって混色技術や合成染料、顔料が普及したことで、象徴体系が解体されていった。その代わり、科学的、心理学的な効果を期待されるようになる。

中世においては、色を混ぜることは、忌むべき行為であった。色は連続性を持たず、単色で染色された。それが18世紀の多色刷り印刷術の発明により、混色して新しい色を作る時代になっていく。色が無限化していく始まりである。

象徴体系は薄れてしまったかもしれないが、これだけ食べ物の名前が多いと、色名を介して視覚、味覚、嗅覚などが連結されているだろう。色がある程度自由に作れるようになってから、食べ物や飲み物の名前をつけていったのが興味深い。

それはフランスがヨーロッパ最大の農業国で、ワインなどの飲み物も豊富だということも影響しているだろう。被写体がその食べ物ではなくても色が近ければ色名を介して、イメージが連結される。写真の色名分析によって彼らの脳の働きの一端が垣間見える。

港千尋さんが、最初に色名分析を見て驚いたのはその事実だった。自分が撮影した写真から、ことごとく食べ物や飲み物の名前が抽出されるからだ。もちろん、色名としての食べ物の名前なのだが、その食べ物を必然的に連想する。そこで色名は色覚、視覚とつなぐだけの言葉ではなく、共感覚や五感とつながっているのだ、と港さんは気づくのだった。


風景を見る際、色は無意識的なものかもしれない。しかし、色を介して被写体と近い色の様々な物と結びついている。それが色名に変換されることで、はっきりと何と連携されているのか自覚することになる。そして、色名に含まれる共感覚や五感への広がりを感じることになるのだ。それは色彩環境と身体、言語がつなぐもう一つの世界、色景の可能性である。

 

参考文献

フランスの伝統色

フランスの伝統色

 

 

色で読む中世ヨーロッパ (講談社選書メチエ)

色で読む中世ヨーロッパ (講談社選書メチエ)

 

 

色彩の紋章

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