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ビジュアルレビューマガジン

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「ハリー・ポッターの森と日本の森」三木学

kinro.jointv.jp

ハリー・ポッターの新シリーズが来年公開されるとのことで、毎週金曜日にシリーズ4作が放映されている。ハリー・ポッターの熱心な鑑賞者というわけではないが、見ているとそこに描かれている森がとても印象深く思える。

 

ヨーロッパ人が抱いていてた森に対するイメージは、緑に対する相反する感情とつながり、映画『シュレック』の主人公の緑色など、現在でもファンタジーやアニメ映画などに投影されている。フランス服飾・文化史を専門とする徳井淑子の『色で読む中世ヨーロッパ』から引用してみよう。

 

「ヨーロッパの大地は今でこそ広々とした畑や平地の広がる風景を見せているけれど、これは開墾によってもたらされた風景で、古くはいたるところで深い森の広がった地域であった。中世の森は鹿や狐を追う狩猟の場であり、ドングリの実を食べさせて豚を太らせる飼育の場である。このように人々に恵みをもたらす森は、一方でグリム童話などに恐ろしい森の話があるように、恐怖と脅威の世界でもあった。森は追剥や盗賊が出没し、狼などの野獣が旅人を襲い、妖精や怪物など不気味な生き物が住む異界である。映画『ロード・オブ・ザ・リング』の原作、トールキンの『指輪物語』が描いた世界はまさに、このような中世人の心の中にある森の世界なのであろう。森の木々があたかも人間のように動き、そして森が迫ってくるという感じかたは、中世のひとが森の神秘と恐怖に圧倒されていたことをよく伝えている。
中世人のこのような森のイメージは、緑色に対する正負の感情をつくりあげた。樹液したたる春の草木の緑は生命の根源であり、一方で人食い鬼のシュレックに緑色の肌を与えねばならなかったように、緑は魔者の色である。緑色にまつわる、中世ヨーロッパのきわめてはっきりとした正負の感情は、森とともに生きるヨーロッパの人びとの生活感情から生まれたものである。 」

pp.100-101

 

色で読む中世ヨーロッパ (講談社選書メチエ)

色で読む中世ヨーロッパ (講談社選書メチエ)

 

 

『ハリー・ポッター』においても、森ににはおどろおどろしく、怖い化け物が棲んでおり、事件が起こる。『ハリー・ポッター』自体が、中世の雰囲気を残す、スコットランドやウェールズ、コーンウォールなどに残るケルトの神話などからエッセンスをとっているということもあるだろう。そもそも、ファンタジー文学の歴史自体が、トールキンやルイス、C・S・ルイス、ルイス・キャロルなど、ケルト神話の色濃い影響を受けている。

 

そこに描かれている森は、明らかに日本の森とは違う。日本の森にある、神秘性や親和性はない。日本の場合は、山岳地帯が多いため、森と山は一体化しており、霊山が多く、信仰の対象にもなっている。もちろん、宮崎アニメにも見られるように、ケルト人と日本人の心性は近いのかもしれないが、キリスト教的な視点から見ると、森は恐怖や異界の対象でもある。

 

ヨーロッパの旧市街が、教会を中心に放射線状に設計されていたり、城壁で囲まれ、非文明的な森と距離がとられているのと、日本の寺社仏閣が里に社があったとしても、山の奥にさらに奥の宮や山自体が信仰の対象となっていることとは対照的であるといえる。

 

それはヨーロッパの方が日本よりも緯度が高く、春の訪れが遅く秋の訪れが早いため、森がもたらす恵みが少ないということも関係しているだろう。そして、緑に対するヨーロッパと日本のイメージの違いは、中世から続く両者の森に対するイメージの違いに一つの起源をもち、今日もファンタジーやアニメ映画を通じて影響し続けているのだ。

 

参考文献

色で読む中世ヨーロッパ (講談社選書メチエ)

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