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琳派の起源への遡行と立体による新たな再生「PANTHEON-神々の饗宴-」三木学

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琳派400年記念と現在のアート&デザイン

今年は、琳派400年記念ということで、京都を中心に様々な場所で琳派がらみの展覧会やイベントが開催されている。琳派400年記念といっても、琳派は土佐派のような朝廷の絵所や、狩野派のような幕府の御用絵師ではない。つまり、世襲、身分、工房のようなもので支えられた派閥ではない。

 

本阿弥光悦、俵屋宗達らの作品を、約100年後に尾形光琳、尾形乾山らが参照し、光琳の作品を約100年後に酒井抱一、鈴木其一らが参照したという私淑によって時空を超えた様式・美意識・美学の系譜である。私淑とは直接的な教えを受けるわけではなく、個人的にその人物を慕い、模範にして学ぶことである。その象徴的な作品は俵屋宗達が描き、尾形光琳、酒井抱一が模写した《風神雷神図》である。400年記念は、本阿弥光悦が1615年に徳川家康から京都洛北の鷹峯の地を拝領し、職人集団が集まる光悦村を作ったことを起点にしている。

琳派400年記念祭

 

今でこそ「琳派」と言われているが、世間的には1970年代に光琳派の略称の琳派が定着したとされる。琳派の仕事は現在で言えば、グラフィックデザインやプロダクトデザインなど、アートというより商業美術に関するものの先駆けといえるだろう。現代において最も近い活動をした人物として、グラフィックデザイナーの田中一光が挙げられる。

dddギャラリー

 

とはいえ、琳派に見られる形の単純化やデフォルメ、配色、類似パターンの展開などは、現代のアート&デザインにすべて見られることであり、直接的、間接的はともあれ影響を受けてないクリエイターはいないといってもよい。10月には俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一の《風神雷神図》が揃い踏みし、琳派を概観できる作品が一堂に会する展覧会「琳派誕生400年記念 琳派 京(みやこ)を彩る」が開催されるので注目されている。

特別展覧会 | 京都国立博物館 | Kyoto National Museum

 

琳派の起源に遡る現代アートの展覧会

その中で、琳派400年記念としては、異色の展覧会が京都府立植物園で開催されているので紹介したい。大型彫刻作品で知られる、現代美術作家、ヤノベケンジと、きゃりーぱみゅぱみゅなどのPVで知られるアートディレクターの増田セバスチャン、照明を使うアーティストとして知られる高橋匡太によるコラボレーション展「PANTHEON-神々の饗宴-」だ。僕も及ばずながらこの企画についてサポートしている。

琳派400年記念 植物園 de RIMPA「PANTHEON ― 神々の饗宴 ―」開催のお知らせ/京都府ホームページ

 

京都府立植物園は、賀茂川と高野川が鴨川デルタで合流する手前の賀茂川沿いにある。元は、上賀茂大社の社領地であり、大正天皇の即位に合わせて博覧会をする予定で購入されたが、議会の反対もあり日本で最初の公立植物園となった経緯がある。そのため、現在でも植物園内に残された半木神社と鎮守の森の古い生態系を残したエリアがあり、さらに、24ヘクタールという広大な敷地に約12000種類、約12万本の植物が植えられている。

 

今回展示されているのは、京都府立植物園の 観覧温室前にある「鏡池」であり、そこに巨大彫刻やオブジェが置かれ、ライトアップが行われている。琳派は、陶芸など小作品を除けば、ほとんど立体作品はなく、琳派をテーマにした展覧会として現代アートの野外彫刻が展示されるのは奇妙に映る人も多いだろう。

 

しかし、俵屋宗達が最初に描いた《風神雷神図》は、三十三間堂の風神・雷神像をモデルにしたという説がある。《北野天神縁起絵巻》の雷神・雷神がモデルだという説もあるが、仏法を守護し、風雨を調える神である三十三間堂の風神・雷神像と、怨霊となっている《北野天神縁起絵巻》の風神・雷神では意味合いがかなり異なる。

 

どちらにせよ、三十三間堂を見て参考にしたことはその類似性からも説得力があるだろう。最終的に俵屋宗達の《風神雷神図》が建仁寺で展示されていたことからも仏教との関係が深いことがわかる。金箔をはり、中央に大きな空間を開けているのは、千体もの千手観音の後光により見えなくなっていると解釈するのが自然だ。京都府の方に聞くと、京都のお坊さんは基本的にそういう認識でいるらしい。やはり、信仰の立場から見る方が確かだろう。

 

二次元から三次元へ-3人のアーティストのコラボレーションと神々の降臨

今回、ヤノベケンジ、増田セバスチャン、高橋匡太は、俵屋宗達が参照したであろう三十三間堂の風神・雷神像の起源に遡り、二次元に凍結されていた風神・雷神を、再び三次元の世界に蘇らせるという試みを行っている。特に三十三間堂の仏像は、鎌倉仏師の最高峰である、慶派、円派、院派が集結して制作されたものであり、鎌倉彫刻の最高傑作の一つである。つまり、風神・雷神を三次元に戻すだけではなく、日本彫刻の成し遂げた偉大な営為を私淑によって引き継ぐという思いも込められている。

 

さらに、仏像や屏風に描かれている神々を降臨させるという意味も込めて、「PANTHEON-神々の饗宴-」とし、物語仕立てで次々に京都府立植物園の鏡池に作品が出現するという趣向になっている。

雷の神である賀茂別雷大神を奉った上賀茂神社の末社があり、琳派がモチーフにした植物や自然現象に直接触れることができる舞台としてこれほど相応しいところもないだろう。

 

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最初に出現したのは、左手にある《雷神-黒い太陽》で、バックミンスター・フラーのフラードームの変型版、コールテン鋼で制作したフライズアイ・ドームによる球体をベースに、中にテスラ・コイルを内蔵しており、雷を発生させることができる。元は、豊田市美術館で《ULTRA―黒い太陽》として発表された。

 

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次に出現したのは、中央の《フローラ》で、京都文化博物館別館や武蔵野美術大学美術館、福島ビエンナーレで展示された《サン・シスター》をベースに、白い絨毯のような素材で覆われていた衣服や髪に、新たに増田セバスチャンが装飾デザインを施した。

 

増田セバスチャンは、透明樹脂で制作した衣服の中にカラフルなオブジェを敷き詰めてLEDで光らしたり、手と頭頂に、睡蓮のつぼみのようなオブジェを持たせたりすることで、新しい作品として生まれ変わらせた。三十三間堂の中央にあって巨大な蓮弁に座る千手観音のようであり、同時に植物園の豊穣な植物をシンボリックに表している。ローマ神話の花の女神の名前でもあるフローラは、転じて植物相を表す用語 floraにもなっている。

 

《フローラ》は、座っているときは深く瞑想しているようであり、立ち上がると目を開いて覚醒し、両手を広げる仕草をする。悟りを開く前のお釈迦様(菩薩)、悟りを開いた後のお釈迦様(如来)のメタファーにもなっている。

 

 

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最期に出現した《風神の塔》は、三枚の風車からエネルギーを発電し、水を汲み取って、口から噴きだすようになっている。賀茂川の水を引いて、生育されている植物園の水の循環を表すと同時に、水の起源である風雨を象徴している。

 

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三体が揃うと、中尊と両脇侍からなる仏像配置の三尊形式をなぞっているように見える。通常、寺院は南向きが多いのだが、三十三間堂は東向きである。平等院鳳凰堂のような阿弥陀信仰、西方浄土が流行した時期は、東向きの寺院も建てられ、夕日の光とともに仏像を拝むようになっている。《風神雷神図》の金箔は、千手観音の後光でもあり、夕日であるともいえる。奇しくも温室と鏡池の配置が東向きになっているおり、鳳凰堂の構図に近い。温室が金閣寺を模しているのも興味深い符号である。

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鏡池には、現在、睡蓮が咲いているが、9月中旬からは増田セバスチャンの増殖型の作品、《New Generation Plant》敷き詰められる。

8月の週末には、夜間入園は無料となり、高橋匡太のライトアップが行われているので、是非ご覧頂ければと思う。夕日に照らされたり、ライトアップされた彫刻群には、植物に囲まれて神々が降り立っているような崇高さを感じることができるだろう。さらに、髙橋匡太による夜間ライトアップ は、仲秋の名月に合わせて9月27日(日)~10月11日(日)にも再び行われる予定だ。

京都府立植物園/京都府ホームページ

 

通常、ヤノベケンジの作品は、色数が少なく、3色以内に抑えることが多いのだが、カラフルで彩度の高い配色によって、Kawaii文化を牽引してきた増田セバスチャンや、高橋匡太が参加することで今までにない、壮大なスケールと感覚的にも訴えてくる展示になっていると思う。琳派に現代のKwaii感覚の起源を求める説もあり、曲線、円形、球体を多用するヤノベケンジと合わせると、琳派の美意識や美学を立体的に具現化しているともいえる。

 

そのような美術史的なうんちくなど関係なく、植物園とともに楽しめる展覧会なので夜間観覧も含めて是非足を運んで頂きたい。

 

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琳派400年記念祭

ヤノベケンジ×増田セバスチャン×髙橋匡太

「PANTHEON-神々の饗宴-」

会場:京都府立植物園 観覧温室前「鏡池」

会期:2015年7月25日(土)〜10月25日(日)

入園時間:9:00〜16:00(17:00閉園)

※髙橋匡太による夜間ライトアップ 9月27日(日)~10月11日(日)

 

「PANTHEON-神々の饗宴-」

"三神夜覧"~夏のライトアップ~

◆特別夜間開園 各日 18:00~20:00

◆以下の6日間、入場無料

8月21日(金)、22日(土)、23日(日)

8月28日(金)、29日(土)、30日(日)

◆会場:京都府立植物園「鏡池」エリアのみ

(入門は、正門と北山門のみとなります)

 

参考文献

 

ヤノベケンジ ULTRA

ヤノベケンジ ULTRA

 

 

家系図カッター

家系図カッター