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新しい地域発信の可能性「ブロガー・イン・レジデンスは普及するか?」三木学

nomadoma-daisen.com

2000年代に入ってから、地方での芸術祭が盛んだ。その大きなきっかけは、大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレと、瀬戸内国際芸術祭だろう。ともにアートプロデューサーの北川フラム氏の下、山と海(島々)という広大な自然の中でアートを鑑賞する芸術祭となっている。

 

2010年代に入ってからは、越後妻有、瀬戸内だけではなく、日本各地で大小様々なな芸術祭が開催されるようになっており、一種のブームになっている。それらはアートの鑑賞を通じて、その地域の魅力を発見してもらうということで、アート・ツーリズムと言われたりしている。

 

一方、地域の問題を、従来のハコモノ行政ではなく、地域コミュニティの人的資源を最大限利用することで活性化することを主眼とする、コミュニティ・デザインとう方法も注目されている。さらに、総務省関連のプロジェクトとして、青年海外協力隊の日本版のような形で、地域に3年程度住み込みながら地域衰退の問題を解決していく、地域おこし協力隊などもある。

地域を変えていく新しい力 地域おこし協力隊

 

それらを参加したり支えている人は、相互に無関係なわけではなく、人が入りまじりながら「地域おこし」という共通目標を達成しようとしていると言える。もちろん、現政府が掲げている地方創生のスローガンとも重なるわけだが、「消滅可能性都市」で知られる増田レポートでも警鐘されているように、官民ともに地方の衰退を無視できなくなったというのが現実だろう。

 

一方、地方芸術祭などの地域アートには批判的な見方もある。もちろん成功事例もあるのだが、人を呼べるアーティストは限られているので、どこの地域でも似たアーティストが参加することになる。地方芸術祭は、トリエンナーレ(3年に1回)、ビエンナーレ(2年に1回)など、通年や毎年やっているわけではないところが多いので、観光客に波ができる。直接、移住などにはつながらない。地域の魅力を発掘することに主眼が置かれ過ぎて、アートとしての強度に欠ける。アーティストが地域コミュニティに寄り添いすぎると内輪受けになりやすく、観光客と逆に断絶ができる、などである。

 

これらの問題は、試行錯誤されるので、結局は自然淘汰の末、良いものが残っていくとは思われる。ただし、アートに地域問題の解決や、経済振興を求めるのは期待し過ぎということも指摘した方がいいだろう。まずは、経済振興、すなわち、企業誘致と起業支援が先にあるべきであり、行政がその努力をしないで、アートに多くを求めると本末転倒になる恐れがある。

 

アートは安上がりで人が呼べると行政が思っていると、観光客も興醒めになる。多くのボランティアも安上がりの労働力を提供するために手伝うわけではないだろう。その辺は、地方芸術祭が増えると、人の取り合いになり、ボランティアにもシビアに見られ、あっという間にネットワークを通じて広まるので注意してもらいたいところである。もちろん、本格的にアートを観光の目玉にしようと施策の中心に添えるというのなら別である。それなら、アーティストも含めた参加者にも、相応の対価を支払うようにしなければならない。

 

話は長くなったが、地方芸術祭も一つの方法であるが、もう少し環境や自然にアートで介入しないでクリエイターの力で発信する方法があるのではないかと以前から考えている。アートの場合はどうしても、そのままの魅力というより、仮設的であれ、常設的であれ異物を置くことを前提としている。それは時に地域との軋轢も生む。また、その摩擦こそがアートの特徴ともいえる。

 

異物を介入させずに発信する方法としては、文筆家や写真家など、そのものをレポートしたり、そこでの経験から物語を作ったりするクリエイターを起用することがか考えられるだろう。近年、日本でもアーティストの滞在制作であるアーティスト・イン・レジデンスが知られるようになったが、ライター・イン・レジデンスや、フォトグラファー・イン・レジデンスのようなプログラムがもっとあってもよいのではないか、と常々提言してきた(最近では増えてきているようだ)

ライター・イン・レジデンスin浦河体験記 « マガジン航[kɔː]

 

最近、感心したプロジェクトとしては、志賀直哉の『城の崎にて』の舞台知られる城崎温泉の地元旅館経営者が、志賀直哉訪問100年を記念し、人気作家、万城目学さんに依頼して現代版の『城の崎にて』を執筆してもらったことである。万城目さんは志賀直哉と同じ三木屋の同じ部屋に宿泊し、『城崎裁判』という題の作品を、半年かけて書き下ろした。『城崎裁判』は、城崎温泉に行かないと購入することができない。防水加工がされおり、お風呂を周りながら読めるという工夫も面白い。この試みは、城崎温泉の環境を一切変えず、クリエイターの力を利用して観光誘致をした好例であろう。

神戸新聞NEXT|文化|万城目学さん現代版「城の崎にて」発表 「温泉で読んで」

 

とはいえ、万城目さんほどの人気作家に新作小説を制作をしてもらうのはお金も時間もかかる。小説ではなく、紀行文という形で、作家に頼むことももっとあってもいいだろう。その中で、鳥取のシェアハウスの試みとして、ブロガー・イン・レジデンスというのが始まるそうだ。1週間〜1ヶ月程度宿泊し、週に2本ほど現地の情報をブログに書くという条件で、滞在費などに半額補助されるという。

ブロガーインレジデンス | お城付きシェアハウス のまど間

 

ブロガーならば、すでにメディアも持っているし、環境を変化するわけでもない。人気ブロガーならば波及効果も高いだろう。もちろん、ブロガーによっては、全額補助や原稿料や制作費を支払うという形もあってもいいだろう。

 

芸術祭などの地域発信が、ハレ(日常)のクイリティブとしたら、決まった時間を設定しない地域発信は、ケ(非日常)のクリエイティブといえるかもしれない。どちらにも利点・欠点はあるので、相補的に実施することも可能だろう。ネット時代の発信方法として、今後様々な試みが行われることを期待したい。

 

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