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ビジュアルレビューマガジン

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色感と質感は並立するのか?「日本人の色彩感覚」三木学

 

フランスの色景 -写真と色彩を巡る旅

フランスの色景 -写真と色彩を巡る旅

 

 

港千尋さんとの共著『フランスの色景』(青幻舎)を上梓してから半年以上経た。いろいろな意見をもらうことが増えたが、様々な対話の中で新しい課題が浮かびつつある。

 

昔から日本の景観を含めた色彩環境のバランスが大きく崩れていると思っていた。特に海外に行ったこともなかった子供の頃から、都市部やロードサイドの看板の配色の酷さには辟易していたし、その理由を知りたいとずっと思っていた。

 

その問題意識は大人になっても消えることはなかった。ひょんなことから、写真や画像から色名や色分布を分析するソフトの開発に携わることになり、日本の色彩景観の分析の協力もするようになってその破綻は確信に変わった。しかし、同時にそれをどのように改善すればいいのかなかなか答えはでなかった。

 

それで、観光都市として世界的に知られ、色彩文化の最も洗練されたフランスと対置することで、明らかになる部分はあるのはないかと思ったのが本書を作ろうと思ったきっかけだった。幸い、港千尋さんは、フランスに住まいを持ち、日仏を行き来する中で、写真家、あるいは人類学者の両方の視点を持った多くの写真を撮影していた。

 

それらを素材に、フランスの色彩環境を、人類学的なアプローチと、科学的なアプローチの両面から分析することで見えてくることがあると思った。その上で、日本の色彩環境にフィードバッグしたいというのが元々の狙いだった。

 

詳しくは、本書を読んで欲しいが、フランスの人々が特に色彩計画されることもなく、自然のうちに身に備えた色彩感覚で、絶妙な配色をしていることが明らかになっている。そこに歩く人々のファッション、店舗、建物など目に見えるすべてのものが、色彩環境を構成しており、写真はその瞬間を切り取ったものに過ぎない。それは主観的な視点や色彩感覚と環境の相互作用によって浮かび上がる風景である。そのことを我々は色景(しきけい)と仮に名付けることにした。

 

もちろん、フランスといっても東西南北に広がり、地域によって様々な特徴がああるため、統一的な色彩感覚がそこにあるわけではないが、地域別に優れた感覚が確かにあることがわかる。

 

ひるがえって、日本の都市部や郊外の色彩環境を見ると絶望的な気持ちになるのだが、フランス的な色彩感覚に基づいた配色法則を適用できる部分がたくさんあることもわかった。それらの配色法則を取り入れたならば、日本の色彩環境もかなり改善されるだろう。

 

しかし、一方で何か根本的なものが不足しているという感覚が残っていた。それは結局何かといえば、やはり質感だといえると思う。フランスの著名な色彩学者・紋章学者であるミシェル・パストゥローも、色彩の感覚は、西洋的の近代色彩学の基本的なパラメーターである色相、明度、彩度では表せないものがたくさんあり、その中でも良く知られるのが日本人の質感だと述べている。

 

日本人は過去にさかのぼれば、平安時代の装束であるかさねの色目などに見られるように、自然環境と相互作用のある洗練された色彩感覚を持っていた。少なくとも中世においては日本の方が優れていると言えるかもしれない。それが破壊されたのは、やはり19世紀以降の化学染料や人工顔料が輸入されたからだといえる。それは天然染料よりもはるかに彩度が高く、極彩色といえるもので、日本人の色彩感覚の範囲外だったということは一つ言えるかもしれない。

 

しかし、一方で中国由来の仏教美術はかなり極彩色だったはずで、それらを使いこなせなかったというわけではなかっただろう。とはいえ、大陸由来の極彩色は時代が進むに連れて、経年劣化してくすんでしまったとしても、新たに塗り替えられることはなかった。逆にそのくすんだ色を、侘び・寂びなどといって趣きのある価値観を見出したりした。

 

その根本的な理由は何だろうと考えたとき、やはり質感が浮かび上がる。結局、素材とは切り離された色面として日本人は捉えることはできないのではないかと思えてくる。色とはあくまで素材の一側面であり、色が塗られることで質感を失うことを嫌うのではないかと思えてくる。今日の看板に驚くほど鈍感なのは、それらがそもそも素材性がないからだろう。

 

往々にして、色感と質感が対立してしまい、日本人は質感を重視してるため、色が質感を邪魔する場合は、色を排除してしまうという傾向にある。だから、質感の問題も含めて解決しない限り、色彩環境は改善されない。

 

もっといえば、日本人は色にさえ質感を感じているのかもしれないと思えてくる。例えば、ざらざらとした赤とか、つるつるとした黒、てかてかとした黄色、ぴかぴかとした青などといったことがありうる。それが現代の日本で顕著なのは、車の塗料かもしれない。そこには質感と色感が融合した姿がある。西欧人には感じない、質感のある色が多数使われていることがある。

 

どちらにせよ、質感の拡張として色を捉え、素材の質感を邪魔しない配色ができたとき、日本人の色彩感覚に引っかかることが可能になるのだろう。それが質感のない色が氾濫したことで崩れた日本の色彩環境を改善する鍵でもあるだろう。

 

 参考文献

 

青の歴史

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ヨーロッパの色彩

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色をめぐる対話

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かさねの色目―平安の配彩美

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