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「ニュー・ファンタスマゴリア―スライドショー新世紀」7/13~16@京都芸術センター

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(C)2017 Chihiro Minato+DOZAN11

www.kac.or.jp

開催概要

展覧会名:『ニュー・ファンタスマゴリア――スライドショー新世紀』
KAC TRIAL PROJECT / Co-Program 2017 カテゴリーC「共同実験」採択企画
会期:7月13日(木)-7月16日(日)
10:00 - 17:00(最終入館16:30)※13日のみ19時まで。
会場:京都芸術センター フリースペース ※会期中無休・無料
参加アーティスト:港千尋DOZAN11(EX 三木道三)、勝又公仁彦、キオ・グリフィス、
佐久間里美、鈴木崇、澄毅、関口涼子DOZAN11、武田陽介、田中和人、中屋敷智生、
矢津吉隆、山内亮二、山本聖子
主催:ニュー・ファンタスマゴリア実行委員会、京都芸術センター
お問合せ:京都芸術センター TEL 075-213-1000/

展覧会について

京都芸術センターは今年度より、アーティストとの連携を強化して創作・発表の場を広げるべくKAC TRIAL PROJECT / Co-programを始動し、昨年12月に、カテゴリーA「共同制作」(公演事業)、カテゴリーB「共同開催」(展覧会事業)、カテゴリーC「共同実験」(リサーチ、レクチャー、ワークショップ等)、カテゴリーD「KAC セレクション」(舞台芸術の分野での発表に限定した支援)の4つの枠組みを設定し、プランを募集しました。今回は、独自開発したソフトウェアを用いてスライドショーに新たな光を当てる上映ショー、「ニュー・ファンタスマゴリア」を開催します。

企画趣旨

 ファンタスマゴリアとは、18世紀末にフランスで発明された、マジック・ランタン(幻燈機)とスライド(静止画)を使ってファントム(亡霊)などを映写する上映ショーである。19世紀のジオラマやパノラマのような視覚的アトラクションとともに流行し、映画の前段階のメディアと考えられている。マジック・ランタンは日本でも江戸時代には「写し絵・錦影絵」、明治時代には「幻燈」として伝播し、興行や報道の他、教育のための「幻燈会」は全国の小学校でも開催された。

17世紀の博物学者、アタナシウス・キルヒャーの著書『光と影の大いなる術』における「光と影の驚異」の章には、カメラの原型であるカメラ・オブスキュラととともに、別の技術としてマジック・ランタンの原型が掲載されている。そこから、写真、映画へと移行する単線的歴史観から逸脱した、上映によって幻影を生むマジック・ランタンの歴史が見えてくる。

写真登場以前には、アニメーションの原型と言われる、ゾートロープ(回転のぞき絵)が発明され、その後、専用映写機が開発されている。18世紀初頭に発明された、音楽と色彩を連動させた色彩オルガンや、20世紀初頭にスクリャービンが発明した色光オルガンもマジック・ランタンの一形態であろう。

19世紀後半、写真の発明によって、マジック・ランタンのスライドは、絵から写真のフィルムに代わり、ファンタスマゴリアも映画の登場とともに徐々に消失していった。20世紀になり、光と写真、音楽の前衛的な実験がバウハウスを中心に盛んに行われた。

そして、「写真の上映」は、映画以外にスライドショーという形で別の発展を見せ、大阪万博の時代にはマルチスクリーンによるスライドショーがパビリオンで上映されるなど、一枚のクオリティが高く、高解像度な写真だからこそ可能な表現が開拓されていった。

その後、スライドショーはエンターテインメントや芸術的表現よりも、ビジネスのプレゼンテーションなどのシーンで、絵や文字、音楽などと同期して表現されるようになった。それは現在パワーポイントやキーノートのようなプレゼンテーションソフトに受け継がれている。

そして、2000年以降、デジタルカメラスマートフォンの隆盛により、新たなスライドショーの歴史が始まろうとしている。静止画と動画の区別は限りなくなくなっており、大量に撮影された写真の表現方法としてスライドショーに音楽を自動付与したりエフェクトをつけるなどして、動画フォーマットにして見せるサービスが様々なプラットフォームから提供され始めている。そこには大量の写真から最適な写真を選択するために流行のAI(人工知能)が利用されている。

一方、アートのシーンでも、写真家がスライドショーを求められることが多くなってきており、新ためてスライドショーの表現とは何なのか?どのような可能性があるのか模索され始めているといえる。

今回、「幻燈会」が行われたであろう小学校跡地の京都芸術センターにおいて、「ファンタスマゴリア」を今日のスライドショー表現の系譜へとつなげ、歴史に隠れていた上映の表現系を掘り起こすトークショーを行う。そして、デジタル時代ならではのマジック・ランタンとして、色彩研究、共感覚研究を元にした画像から音楽を生成させるスライドショー専用ソフトウェアを開発、それを用いたスライドショー作品の上映を行うことで、新世紀のスライドショー「ニュー・ファンタスマゴリア」を開催する。

(三木学・色彩研究者) 

関連プログラム

トーク「スライドショーの歴史と可能性―写真と音楽をめぐって
日時:7月13日(木)19:00 — 20:30
会場:京都芸術センター フリースペース
出演:
港千尋(写真家・著述家/多摩美術大学教授)、勝又公仁彦(写真家・美術家/京都造形芸術大学准教授)、DOZAN11(音楽家)、佐藤守弘(視覚文化研究者/京都精華大学教授)、三木学(編集者・色彩研究者)ほか
※予約不要・参加無料

クレジット

主催:ニュー・ファンタスマゴリア実行委員会、京都芸術センター
ソフトウェア「PhotoMusic」開発:
港千尋(監修)、南方郁夫(プロデューサー)、三木学(ディレクター)、
DOZAN11(音楽ディレクター)、木村利行(UIデザイン)、谷本研(ロゴデザイン)
企画:三木学
協力:株式会社ビジョナリストクラウド・テン株式会社、株式会社カエルグラス、丸山美佳
WEB:http://photomusic.jp

アーティストプロフィール

港千尋 Chihiro MINATO
写真家、著述家。1960年神奈川県生まれ。写真展「市民の色 Chromatic citizen」で第31回伊奈信男賞受賞。『記憶』(講談社選書メチエ、1997年)でサントリー学芸賞受賞。2007年「ベネチア・ビエンナーレ日本館」コミッションナー、2012年「台北ビエンナーレ」共同キュレーター、「あいちトリエンナーレ2016」芸術監督。

 

勝又公仁彦 Kunihiko KATSUMATA
写真家、美術家。静岡県生まれ。早稲田大学法学部卒業。インターメディウム研究所修了。主な展覧会に「写真の現在2 —サイト— 場所と光景」東京国立近代美術館(東京、2002年)「都市の無意識」東京国立近代美術館(東京、2013年)「あいちトリエンナーレ2016」『トランスディメンション—イメージの未来形』岡崎康生会場(愛知、2016年)など。主な受賞に「さがみはら写真新人奨励賞」(2001年)、「日本写真協会新人賞」(2005年)。コレクションに東京国立近代美術館世田谷美術館沖縄県立博物館・美術館など。

 

キオ・グリフィス Kio GRIFFITH
音と映像の現代アーティスト、キュレーター、ライター。1963年神奈川県生まれ。ロサンゼルスと日本を拠点に、現代美術、デザイン、実験音楽等の様々なプロジェクトを手掛けている。近年では「あいちトリエンナーレ2016」(愛知、2016年)、LACE Emerging Curator Award 2017などで発表。Transit Republic, TYPEプロジェクト・ディレクター、IMMI / Los Angeles編集長。


佐久間里美 Satomi SAKUMA
写真家、アーティスト。東京都出身。東京と大阪を中心に個展を開催。近年の展示に、「LUMIX MEETS JAPANESE PHOTOGRAPHERS #2」YellowKorner Paris Pompidou(パリ、2014年)、「◯△□」POETIC SCAPE (東京、2015年)など。コレクションにサンフランシスコ近代美術館。

 

鈴木崇 Takeshi SUZUKI
写真家、アーティスト。The Art Institute of Boston写真学科卒業後、デュッセルドルフ芸術アカデミーのトーマス・ルフクラス研究生ならびに、トーマス・シュトゥルートのアシスタントとしてドイツに滞在。主な展覧会に、「写真の現在3:臨界をめぐる6つの試論」東京国立近代美術館(東京、2006年)、「これからの写真」愛知県美術館(愛知、2014年)等。作品集「kontrapunkt」をドイツのTRADEMARK PUBLISHINGより、「BAU」、「ARCA」をIMA Photobooksより刊行。

 

澄毅 Takeshi SUMI
写真家、アーティスト1981年京都府生まれ。2004年明治大学文学部卒、2009年多摩美術大学美術学部情報デザイン学科卒。写真集「空に泳ぐ」(リブロアルテ、2012年)。近年の展示に「lumiére et vous」Galerie Grand E'terna(パリ、2015年)

 

関口涼子 Ryoko SEKIGUCHI
詩人、著述家、翻訳家。1970年東京生まれ。フランス在住。1989年に第26回現代詩手帖賞受賞。1993年に詩集『カシオペア・ペカ』を刊行。その後、日仏二ヶ国語での著作活動、多数の翻訳を手掛ける。「あいちトリエンナーレ2016」に「味の翻訳」プロジェクトで参加。近年「文学ケータリング」として、「文学」と「味」を結びつけるワークショップ、パフォーマンス、翻訳などを行っている。今回はDOZAN11と料理写真と音楽による「翻訳」を行う。

 

武田陽介 Yosuke TAKEDA
写真家、アーティスト。1982年愛知県生まれ。2005年同志社大学文学部哲学科卒業。近年の個展に、「キャンセル」 3331 GALLERY(東京、2012年)、「Stay Gold」 タカ・イシイギャラリー(東京、2014年)、「Arise」 タカ・イシイギャラリー(東京、2016年)など。コレクションにサンフランシスコ近代美術館、スペイン銀行など。

 

DOZAN11(EX三木道三
楽家、レゲエDJ、ソングライター、プロデューサー。『三木道三』名義で、1995年、7インチシングル「JAPAN一番」をJap Jamからリリース。2001年、シングル「Lifetime Respect」で、日本のレゲエ史上初のオリコン1位を記録。2002年「Since I met you lady」で、UB40とコラボレーション。その後、作家、プロデュース活動のみしていたが、2014年、ステージ復帰して各地でライブ活動中。

 

田中和人 Kazuhito TANAKA
写真家、アーティスト。1973年埼玉県生まれ。1996年明治大学商学部卒業後、会社勤務を経て、渡米。2004年School of VISUAL ARTS(ニューヨーク)卒業。主な個展に「pLastic_fLowers」Maki Fine Arts(東京、2015年)、「transpose / perception」gallery αM(東京、2017年)など。主な展覧会企画に「アブストラと12人の芸術家」(京都、2012年)、「 NEW INTIMACIES」(東京、2016年)など。2011年TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARDグランプリ受賞。コレクションにthe amana collectionなどがある。


中屋敷智生 Tomonari NAKAYASHIKI
画家、アーティスト。1977年大阪府生まれ。京都精華大学美術学部造形学科洋画分野卒業。主な個展に「Surge」KOKI ARTS(東京、2014年)、「Big Day Coming」Gallery PARC(京都、2012年)など。グループ展に「1. Certains Regards à Paris-ある視点 in Paris 」兵庫県パリ事務所(パリ、2017年)、「Dribble」2kwギャラリー(大阪、2016年)、「アブストラと12人の芸術家―HER NAME IS ABSTRA-」大同倉庫(京都、2012年)など。とよた美術展’07審査員賞。

 

矢津吉隆 Yoshitaka YAZU
美術家、kumagusuku 代表。1980年大阪府生まれ。2004年京都市立芸術大学美術科彫刻専攻卒業。主な展覧会に第13回岡本太郎現代芸術賞展(東京、2010年)、個展「umbra」Takuro Someya Contemporary Art tokyo (東京、2011年)など。2012年から宿泊型アートスペース kumagusuku のプロジェクトを開始。2015年1月に京都市壬生にKYOTO ART HOSTEL kumagusuku をオープン。

 

山内亮二 Ryoji YAMAUCHI
写真家。1986年岐阜県生まれ。2011年名古屋学芸大学大学院メディア造形研究科終了。主な展覧会に「Musing in the Land of Smiles」新宿・大阪ニコンサロン(東京・大阪、2015年)、「Quiet River, Seoul」コニカミノルタプラザ(東京、2013年)など。2015年ニコンサロンJuna21、2013年コニカミノルタフォトプレミオ入賞。

 

山本聖子 Seiko YAMAMOTO
アーティスト。1981年大阪府生まれ。2006年京都造形芸術大学大学院芸術研究科修了。主な個展に「色を漕ぐ-Swimming in Colors-」GalleryPARC(京都、2016年)、グループ展に「AssembridgeNaogya2016」Minatomachi Art Table, Nagoya(愛知、2016年)など国内外多数。2011年Tokyo Midtown Award グランプリ、同年 Rokkoミーツ・アート芸術散歩公募大賞。

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連面と続く人類と作像の歴史ーデイヴィッド・ホックニー&マーティン・ゲイフォード『絵画の歴史』(青幻舎)三木学

 

絵画の歴史 洞窟壁画からiPadまで

絵画の歴史 洞窟壁画からiPadまで

 

 

デイヴィッド・ホックニーは、ポップ・アートの先駆者としてデビューし、20世紀後半から現在に至るまで、もっと影響力のあるアーティストの一人である。現在、テートブリテンで60年に渡る画業を振り返る大回顧展が開催されているが、常に新しいメディアを駆使して画法が変わり続けるホックニーにおける「変わらないもの」が逆に見えてくるかもしれない。

ホックニーの画業に関するオーバービューは、IMAに寄稿したので関心のある方は是非ご覧頂きたい。

 

作品だけではなく、ホックニーの芸術に関する深い見識が話題となったのは、『秘密の知識』においてである。『秘密の知識』は、ホックニーがアングルの小さな絵を見たときに、その正確な描写に対する「違和感」とレンズ歪みの痕跡を見出したことに端を発する。その微妙な歪みに気づくことができたのは、写真をいち早く取り入れ、写真の新しい表現方法を確立させたことでも知られるホックニーの眼ならではであろう。

 

そして、写真が公式に発明される1839年以前から、多くの画家は何等かの光学機器を使っていたのではないかと推測をはじめ、自身もカメラ・ルシーダという、レンズを使ったデッサンの補助器具を使いながら、絵画と写真の歴史を再解釈していく大著である。そして、カメラの前身器具を使ったことで有名な17世紀のフェルメールをはるかにさかのぼり、1430年頃のフランドル地方まで起源が求められることを突き止める。そこでの結論はつまり線遠近法の発明自体が、広義の意味でのカメラの産物であり、遠近法がカメラを生み出したという歴史観とは逆の画家と光学機器との深い関係だった。

 

『絵画の歴史』は、『秘密の知識』の続編とも位置付けられるが、その射程ははるかに長く、そして広い。洞窟壁画や古代エジプトの絵画から、iPadのドローイングまで、人類と画像の歴史をまさにノンリニアに縦横無尽に語りつくしたものだ。画像と書いたのは、この本の意図するPictureが教義の「絵画」と呼べるものではなく、絵画、写真、映画、アニメーション、デジタル画像から、洞窟壁画、古代エジプト、中国美術、日本美術に至るまで、人類の作った全ての3次元から2次元に変換された画像(Picture)を対象としているからである。

 

Pictureに進歩はない、と言い切るように、刻々と変わりゆく、人類の画像の歴史を進歩として捉えているわけはない。確かに、素晴らしい洞窟壁画の描写と、現在のCGのどちらが優れているとか、進歩しているとか語るのはナンセンスである。ただはっきりしているのは、何時の時代も人間は画像を作り続けるという事実であり、描写方法に歴史上、地球上でハイパーリンクのように類似性、関連性が見られることである。網の目のように貼られ繋がるホックニーとゲイフォードの対話は、アビ・ヴァールブルクの「ムネモシュネ・アトラス」を想起させる。

 

とはいえ、このようなホックニーの視点が注目されるようになったのは、今日において、写真が真実を写しているという呪縛が徐々に解けていることと無関係ではない。デジタル写真、特にスマートフォンタブレットが普及したこの10年で、デジタル画像は猛烈な勢いで世界を覆い、インフレ化、陳腐化している。そして、それが真実を写しているとは誰も思はなくなっている。デジタル画像はどのようにでもフェイクすることが可能だ。この世に真実の画像など一つもない。あるのは誰かの視点のみである。

 

写真が登場して、絵画は死んだかのように思えたが、今日に至ってみればどちらかといえば死んだのは狭義の写真の方である。しかし、絵画も写真も同じ画像という平面に立ってみれば、Pictureの変遷に過ぎない。そこにおいては、絵画も写真も映画もない。画像があるだけであり、人が画像を作り続けるという変わらない事実だけが横たわっている。人類が存在している限り、画像は作り続けられるし、ホックニーというそれを体現しているアーティストだからこそ、このような本が書けたのだ。

 

参考文献

 

秘密の知識<普及版>

秘密の知識<普及版>

 

 

めくらない巨大な絵本『Big Book おおきなかぶ 』『うらしまたろう』(青幻舎)三木学

 

Big Book おおきなかぶ

Big Book おおきなかぶ

 

 

Big Book うらしまたろう

Big Book うらしまたろう

 

 

bigbook

Big Book おおきなかぶ | 青幻舎 SEIGENSHA Art Publishing, Inc.

Big Book うらしまたろう | 青幻舎 SEIGENSHA Art Publishing, Inc.

 

360度開いてくり抜かれたページをまたぎながら物語が展開される、360°BOOKなど、規格外のユニークな本を企画することで今やすっかり青幻舎の名物編集者になった、苑田大士くんがまた新たな「本」をプロデュースしたことを知らせてくれた。

 

今度は巨大な絵本である。とはいっても、ページをめくったりはしない。折りたたまれた巨大な紙を最初からすべて開くことで初めて絵本になる。これは本という構造を根本的に無視したもので、もはや本とはいえないかもしれない。なぜなら、本は閉じられた、あるいは綴じられた束を少しずつめくることで物語が展開されるからだ。つまりこの本はネタが最初からばれてしまっているのだ。

 

ただし、この本の作りには大いに賛同するところがある。一応、子供用に想定されたこの本は、逆にいえばめくらなくてよい。絵本をめくらなければならないというのはこれまた根本的な欠点でもある。なぜなら、幼児はめくることが得意ではない。だから、どうしても紙を厚くして持ちやすくするか、両親がめくらなければならない。それでもうまくめくれないこともあるし、両親にしても横に寄り添いながらなら可能かもしれないが、紙芝居のように見せる場合、読み聞かせをするためには、どうしても角度をつけなければならないからだ。

 

これは以前から考えていた欠点で、幼児向けの本は、巻物のような「綴じない」構造の方が向いているかもしれないと思っていた。このBig Bookシリーズは、そのことを突き詰めたかどうかはわからないが、大胆にも綴じない方法を採用している。綴じない一枚の紙を「本」と呼べるのかはわからないが、それゆえに盲点をついた魅力的な見世物になっているといえる。

 

最初からネタがばれてしまっている、と先に書いたが、「おおきなかぶ」という誰もが知っている童話をテーマにした1冊では、横2メートルにも及ぶ巨大なかぶに、虫や鳥など小さな動物が細かく描かれており、一瞬では把握できない発見がたくさん散りばめられているし、同じく「うらしまたろう」には、巨大なウミガメの周辺に貝殻やサンゴなどが散りばめられており、巨大な絵と小さな絵を対比的に描くことで、視点の誘導を行っているといえる。そのあたりのサイズ差とフォーカスがもたらす複眼的な視点誘導による物語の発生が、新たな本の可能性を開いているといえるだろう。

 

とはいえ、そのような細かな指摘よりも、巨大な絵を体験できるという利点が一番大きく、子供たちにとっては最初に見る、触ることのできる巨大な絵になるかもしれない。体験するというのはそれだけ危険をともなうので、紙質には相当こだわったと思われる。子供が乱暴に扱っても、くしゃくしゃにしても復元性があり、耐水性も備えているという。紙は角があり手や肌が切れることもあるので、その辺の工夫は製品としても大事なところだろう。

 

ともあれ、本の可能性をまた一つ開く本が出来たといってもよい。この本を読む子供たちが実際どのような反応をするのか楽しみではある。是非ワークショップなども開催してほしいところだ。ひとまず、本を題材にした、作者と苑田くんのワクワクする冒険を僕も楽しみたい。

 

参考文献

 

shadowtimes.hatenablog.com