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ビジュアルレビューマガジン

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プレゼン資料と著作権-内部資料とはどこまでか?「東京オリンピックとデザインの行方(7)」三木学

www.sankei.com

ついに、東京五輪エンブレムが、約1カ月の騒動の果てに、撤回されることになった。再度公募し、新しいデザインを決定するとのことだ。

 

その決め手となったのは、主に2点である。1点目は、原案がドイツの著名タイポグラファー、カリグラファーであるヤン・チヒョルトの展覧会の際に作られたポスターの一部に酷似していたこと。2点目は、展開例を示すプレゼン資料に、第三者の著作物(写真)を、著作者の許諾なく利用していたこと。さらに、写真下部にあった著作権表記のクレジットを意図的に削除していたことである。

 

1点目については、佐野氏の弁によれば、展覧会は確かに見たが、盗作したわけではない、とのことであり、審査委員代表の永井一正氏も、異なるものであると述べたとされている。この真相については、本人しかわらない。法的に民事訴訟をしない限り、これ以上明らかにはならないが、今回の場合、ヤン・チヒョルトのタイポグラフィを使ったデザインの一部なので、誰が著作権者なのかも微妙だ。ヤン・チヒョルトの親族が告訴することも、展覧会のポスターをデザインしたデザイナーが告訴することも考えにくい。要するに、真相は永遠にわからないだろう。

 

2点目については、佐野氏本人が認めたので、事実上の盗用であり、明らかな著作権侵害になる。残念なことに、エンブレムそのものとは違う展開例として出したプレゼン資料で、盗作が指摘されたことが白紙撤回の決定打となった。しかし、その展開力こそが、今回のエンブレムで審査委員に一番認められたところであったのだ。

 

佐野氏は会見で、エンブレムに関して一切盗用はしていないことを述べていた。その後、サントリーの「オールフリー」の景品であるトートバックのデザインの盗用が発覚したが、それは事務所のスタッフがやってことで管理ミスであるが、エンブレムは個人で提出したので盗作ではないと改めてコメントしていた。

 

それだけに、展開例の盗用を認めたことは打撃が大きかった。そのことで、すべてが信用されなくなってしまい、国民の疑念をぬぐえなくなったといってよい。サントリーのトートバック以降もあらゆる過去のデザインに対しても、ネットを中心に盗用疑惑が指摘されるようになっており、さらに疑惑を増してしまうことになった。

 

最近では、佐野氏だけではなく、家族やスタッフにまで取材攻勢や様々な嫌がらせを受けていることを公にし、佐野氏が取り下げる形で、今回の東京オリンピックエンブレムは撤回されることになった。

 

それでも、佐野氏はエンブレムに関する盗用や模倣に関して一貫して否定している。他の作品についても同様の意見であるととれる。しかし、もはや国民が一切盗用していないと断言することを信じるのは難しいだろう。そもそもデザインを含めた創作は、誰であっても様々な過去の創作物や同時代の創作物に影響を受けているので、無意識に類似した創作をしてしまうことはよくあることである。だから、故意に盗用しているかどうかがまずは問題になる(結果的に似ても問題になるがその対策は以前書いた)。

 

そこで故意性の問題に移る。特に、プレゼン資料に盗用があったことが問題だったわけだが、デザイン界では内部資料の場合、第三者の創作物を利用することはある、と佐野氏は弁明していたという。それを公的な資料でも使ってしまったというのだ。これに関しては、かつてデザイン界では、クライアントとの打ち合わせに際して、プレゼンボードにイメージ図として、雑誌などから切り取った画像を使ったりしていた慣習が現在でもあることを示唆している。

 

近年ではデジタル化し、雑誌の切り抜きではなく、コピーをしたり加工したりすることが横行しているということである。しかし、社内内部での検討なら私的使用と判断される可能性はあるかもしれないが、クライアントとの打ち合わせに使う時点で、私的使用の範囲を超えている。つまり、著作権者の利用許諾なく使うことは著作権侵害にあたるのだ。

 

具体的に言えば、著作法における著作者人格権と著作権の侵害である。著作者人格権には、公表権、氏名表示権、同一性保持権とあるが、クレジットの非表示と無断の改変は、それぞれ氏名表示権利と同一性保持権の侵害にあたる。写真の無断使用、複製は、著作権における複製権、改変は翻案権の侵害に当たるだろう。

 

最近では、ストックフォトなども安く手に入るし、素材集などもあるはずで、ネットから無断でダウンロードしたものを、そのまま加工して提出したことは、あまりに著作権の認識が低いといわざるをえない。しかし、サントリーのトートバックも似たような作り方をされていたので、プレゼン資料として使う段階を超えて、そのまま完成品として使うことに次第に移行したのではないかと想像してしまう。佐野氏本人がそうであるとは言わないが、事務所内ではいつの間にか内部での使用が、外部に突き抜けてしまったモラルハザードの地点がどこかであったのだろう。

 

ちなみに、著作権法には、著作権者への許諾を必要とせず、著作物を利用できる規定がある。それは著作権の制限規定といわれるが、代表的なものが「私的使用のための複製」(30条)である。もちろん、社内における検討資料程度なら、著作権侵害に当たらない可能性は高いが、デザイナーがクライアントに提示すること前提にした資料作成の場合、そもそもの目的が営利であるため、容易に著作権侵害に移行してしまう。クライアントに提示する資料として使うとしたら、何の加工もせずに出所を明記する「引用」(第32条)が限度だろう。

著作物が自由に使える場合は? | 著作権って何? | 著作権Q&A | 公益社団法人著作権情報センター CRIC

著作権法

 

どこまでが内部資料でどこからがプレゼン資料なのか、という線引きの問題になってくるが、第三者に見せる時点で、プレゼン資料であり完成品であると考えなければならない。今回、多くの代理店やデザイナーが認識を改めなければならない事例になったといえるだろう。

 

参考文献

60分でわかる! 図説 著作権 (ディスカヴァー携書)

60分でわかる! 図説 著作権 (ディスカヴァー携書)