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リオ五輪エンブレム類似騒動と3Dデザイン「東京オリンピックとデザインの行方(8)」三木学

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東京五輪エンブレムが盗作騒動の末に白紙撤回された。プレゼン資料や他社の仕事において盗用があったのは確実だが、エンブレム自体が盗作かどうかは闇の中である。裁判をしても、多くの弁護士の予想通り少なくとも著作権侵害と判定される可能性は低いだろう。とはいえ本体ではなくても、プレゼン資料や他社の仕事での盗用は、裁判の心証を悪くするのは確実である。

 

一方、リオ五輪エンブレムも、類似騒動が起きており、開幕を目前にしても解決はしてないようだ。アメリカ合衆国コロラド州テルユライドにあるテルユライド財団が、ロゴマークが似ているとして、IOCに苦情を申し立てているのだ。それ以前に、アンリ・マチスの有名な作品『ダンス』に似ているという指摘もある。

 

それに対して、デザインが選ばれたターチウ社は、反証のための映像を制作して公開している。総勢40名ものチームがデザインに込めた思い、完成までのプロセス、推敲したデザインの数々は、このデザインに試行錯誤してたどり着いたことを証明している。ザハ・ハディドの反証映像も評判になり、世論の声を少なからず変えることに成功しているが、これからは、デザイナーも制作物への盗用や苦情に対して、周到に反証する準備もしておかなければならないかもしれない。

 

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類似騒動があるとはいえ、個人的にはリオ五輪のデザインを高く評価している。それは時代の流れを確実に掴んでいるからでもあるし、完成度が高いからでもある。彼らがリオ五輪エンブレムの制作にあたって採用した3Dによるデザインは、近年の3D技術の発達に呼応している。そして、2Dデザインの限界を超えて確実に次のフェーズに進めている。2Dの幾何学的なモダンデザインは歴史も長く、世界中で作られているため、どんなデザインをしても似てくるの当然ともいえる。

 

一方、グラフィックデザインの世界で、完成度の高い3Dデザインを作れるデザイナーはまだまだ少ない。それだけでも類似を指摘される確率もかなり減るだろう。それでも今回は類似を指摘されているわけだが、イラストをベースにしたルユライド財団のロゴマークとは、確実な違い説明できるし、手を結ぶ人々とともに、RIOという文字を3Dデザインで実現しているため高度な技術を使っていることも証明になる。本来別であるイラストと文字の要素を3Dデザインを使って融合させているのだ(さらに、リオの名所、パォン・ジ・アスーカルを模しているとも主張している)。映像にもあるが、この3Dデザインは3Dプリンターなどで実際に立体化を実現しており、立体エンブレムのグッズを作ることもできるだろう。

 

五輪エンブレムで3Dデザインが採用されたのは初めてであり、IOCもそのことを高く評価しているように、デザインが次に開拓する可能性を表現しているともいえる。何よりチャレンジングである。オリンピックに対して、デザイナーに必要なのは、レガシーの前にアスリートが新記録や金メダルを目指し、スポーツメーカーがそのために新製品を切磋琢磨して作るような姿勢であり、挑戦だろう。

 

亀倉雄策のデザインも、3Dデザインで進化させることは可能だろうと思う。また、平仮名、片仮名、漢字、アルファベットという多くの文字を包含する珍しい言語である日本語を使って、3Dデザインを作ることも可能だ。次回のエンブレムに取り組むデザイナーには、次の時代を切り開く新しいデザインに挑戦することを願うばかりである。その姿勢があれば、例え類似作品や盗作疑惑が出ても、反証できるだろう。