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アートブックとブックアート・本がアートになるとき「東京アートブックフェア(THE TOKYO ART BOOK FAIR2015)」三木学

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tokyoartbookfair.com

 

先日、用事のついでに東京に行った際、東京アートブックフェア(THE TOKYO ART BOOK FAIR2015・T.A.B.F)に立ち寄った。立ち寄ったというのは、港千尋さんと打ち合わせをした後、少し時間があるからということで、1時間も経たない短い期間だけ会場を散策したからだ。会場は京都造形芸術大学・東北芸術工科大学 外苑キャンパスで、話題の国立競技場に隣接している。

 

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 国立競技場跡地

 

知り合いは結構、出品したり、見に行ったりしているようで、FBのタイムラインも賑わっていたので開催されるのは知っていた。しかし、ここまで盛り上がっているとは知らず、中に入って驚いたというのが実際のところだ。なんと3日間の開催で来場者数は1万人を超えるという。今年は海外からの出展も多く、例年に増して賑わっていたようだ。

 

関連イベントや展覧会も開催されているらしく、こんなことならもっと調べてから行けば良かったと思ったが、そもそも行く時間があると思ってなかったのでしょうがない。ブースの量を考えれば、1日じっくり滞在するか、3日間通うかくらいしないと把握できないだろう。

 

例えるなら、アートブック版のコミケ(コミックマーケット)と言えば一番わかりやすいだろう。当事者たちがどう思っているのかはわからないが…。出展者も、美術書の出版社からギャラリー、アーティスト、フォトグラファー、デザイナーなど大小、様々なクラスターがいる。そこに一貫しているのは小部数のアートブックを対象にしているということだろう。もちろん、取次、書店を通している出版物もあるのだが、発行部数自体は少ないだろう。初版1万を超えるアートブックは会場にはないに等しいと思う。

 

アートブックというよりは、ブックアートと言った方が近く、本の型式をとったアート作品の見本市と言った方が正しいかもしれない。そのような自費出版で書店流通を通さない出版物のことをZINEと言ったりするが、東京アートブックフェアもZINEブームの流れを受けている。そもそもZINEの見本市から始まったフェアであるらしい。それは2009年にユトレヒトとロンドンのクリエイティブチーム PAPERBACK が共同で設立したZINE’S MATEが主体となっていることからも明らかだろう。

 

ユトレヒトと言えば、2004年当時、まだ書店とギャラリーが併設されている頃、友人の谷本研くんが執筆・デザインをし、僕も寄稿した『ペナント・ジャパン』(パルコ出版)を出版した際、谷本くんがペナントの展覧会をするので見に行ったことがある(展示場所は元トイレの空間だったと思う)。少し前にAMAZONには売っていない、NOMAZONなどのサイトをやっていたことは知っていたのだが、僕もアートどっぷりな活動をしてきたわけではないので、ユトレヒトが日本におけるZINEブームのけん引役となっていたことをこの機会に知ることになった。

http://nomazon.net/

 

この状況は何かに似ていると直感的に思った。実は、15年以上前にインディーズ対象のフリーペーパーの編集部に在籍していた僕は、にわかに沸いた音楽業界のインディーズ・ブームの渦中にいた。音楽におけるインディーズもメジャー流通を通さないレコード会社や、自費出版のミュージシャンのムーブメントだった。メジャーを通さない分、売上の利益は圧倒的に高く、人気があるバンドはメジャーよりも稼いでいるという逆転現象が起きており、その状況を見てメジャーレーベルがインディーズに参入し始めていた。

 

結局そのブームは、iPodやYouTubeなど、電子音楽配信や動画共有サイトの隆盛により、音楽業界が急速に縮小したため消えてしまった。今やメジャーレーベル自体が壊滅的であり、すべての音楽家がインディーズの状態にあるといっていい。

 

ZINEやアートブックは、正規の流通ではなく、自分たちの表現として雑誌や本を作る文化であるが、それは格段にDTPが発達し印刷代が安くなったことにも起因している。音楽業界と違うのは、ZINEやアートブックの場合は、電子化できない物質性やオブジェ性が重要であり、電子書籍やウェブマガジンとは重ならないところだろう。

 

逆にインターネットで直接販売できるプラットフォームも確立されており、アートブックの追い風にもなっている。美術系の出版社でも、多くのZINEの中から書店流通ができるような商業的に価値が高い作品を見に来ているようだ。

 

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セルフポートレイトの作品で世界的に著名になった澤田知子さんのRVB BOOKS(フランス)から出版される作品集も売り出されていた。写真は本人。

RVB BOOKS

 

会場は活気に満ちていて、次々と知り合いに会うこともできた。電子化にならない商品であり、どちらかというと、昨今のハンドメイドブームに近いものがあるため、しばらくこの市場は大きくなるだろうと思った。同時に、本はすでに古いタイプのメディアであり、版画などがそうであるようにアートになっていくのだという実感を覚えた。だから本質的にはアートブックというよりは、ブックアートなのだろう。このブックアートがのムーブメントがどのように進化していくのかしばらく観察してみたい。