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ジレット・モデルとカメラ業界「レンズとインクのビジネスモデル」三木学

 

 

アメリカで、エプソンのプリンターが、残量が少ないというアラートが出ているのに、まだまだインクが余っているということが告発され話題になっているようだ。アメリカの美術業者「Bellevue Fine Art Repro」によると、残量1%の警告が表示されていても実際は20%ほど残っているというから驚く。

【炎上】エプソンのプリンターインク商法が詐欺だと男性が告発。残量1%で交換を促されるのにドバドバ残っている | netgeek

 

しかし、インク商法と書かれているように、プリンターの価格を引き下げ、その後のインクの買い替えで儲けるという、プリンターのビジネスモデルはほとんどのユーザーは知っているだろう。

 

これはエプソンに限らず、プンリターや複写機を販売しているキヤノン富士ゼロックス、リコーなどでも同じことである。基本的にはインク交換、業務用ではインク交換も含めたメンテナンスで儲けている。

 

そのような本体を安くし、消耗品の交換で儲ける商売のことをジレット・モデルという。ジレット・モデルとは、カミソリの替え刃で儲けることから名付けられた。開発したキング・ジレットは、「本体でなく使い捨ての替え刃で儲ける安全剃刀」を特許申請し、1903年に商品化している。それは今でいうビジネスモデルのイノベーションであり、現在ではビジネスモデル特許に値するものだろう。

ジレットの“替え刃モデル”は、ただのアイデア一発ではない~「ビジネスモデル全史」【前編】|三谷流構造的やわらか発想法|ダイヤモンド・オンライン

 

それ以降、ジレット・モデルはビジネスモデルのお手本のようになったが、プリンターや複写機はその典型である。しかし、肝心なのは単にビジネスモデルだけではなく、特許を含むビジネスモデルであるということである。最大手だったゼロックスの業務用複写機は特許の固まりであり、そこに参入することは非常に困難だった。ゼロックスが膨大に保有している特許を侵害しないように、新たな方法で試行錯誤の上に開発したのがキヤノンである。そのエピソードは、NHKのドキュメンタリー番組『プロジェクトX』でも紹介されたことがあるのでご存知の方も多いだろう。その経験からキヤノンは現在でも国内最高の知財部を擁している。

 

したがって、業務用複写機は特許という知的財産と、メンテナンスという業務体制が整ってないと参入できないので安定したビジネスができるようになっている。キヤノンはカメラで有名であるが、その利益の半分以上は業務用複写機で稼いでおり、その安定収益があるからこそ、デジタルカメラへの開発投資もできるといえるだろう。

 

結構前の話だが、プリンターのインクを巡って訴訟が行われたことがある。当時、キヤノンエプソンのプリンターを購入して、リサイクルのインクが売られていた。それに対して、キヤノンエプソン特許権侵害の訴訟を行った。結果、キヤノンは勝訴したが、エプソンは敗訴した。キヤノンが押さえていたのかもしれないが、エプソンは特許で防御できてなかったのだ。ジレット・モデルの欠点は、消耗品をサードパーティーに作られることであるので、それに対しての知財の蓄積の差が現われたといえるだろう。

 

もう一つカメラ業界のビジネスモデルとして、レンズがある。一眼レフカメラなど高級カメラになると、本体もさることながら交換レンズで利益を出している。コンパクトデジカメは儲からず、高級デジカメにシフトするのも、交換レンズの収益の高さが大きい。コンパクトデジカメは、今やほとんどスマートフォンに市場を奪われているのも、逆にいえば交換レンズがないからでもある。サムスンでさえ、コンパクトデジカメから撤退するというニュースが流れてきている。

韓国サムスン、カメラ事業大幅縮小 ―日本のカメラ技術壁厚く | GGSOKU - ガジェット速報

 

交換レンズは、特に特許で保護されているわけではなく、サードパーティーからの商品も出ている。しかし、長年の技術的蓄積や純正レンズのアドバンテージにより、ビジネスモデルを維持できているといえる。

 

キヤノンは、プリンターにおけるインクとカメラにおけるレンズという二つの異なるジレット・モデルを有しており、非常に底堅い経営をしているといえる。サムソンでさえ、牙城にはなかなか食いこめなかったことを考えると、他の企業でも難しいだろう。カメラは日本のエレクトロニクスが世界市場で優位性を持っている数少ない市場になってしまったが、今後ニコンソニーがどこまでキヤノンと肩を並べてビジネスができるかが注目されるところだろう。

 

参考文献

 

 

 

キヤノン特許部隊 (光文社新書)

キヤノン特許部隊 (光文社新書)