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Google美術館の未来—瞬間から空間へ「Art Camera」三木学

www.itmedia.co.jp

japanese.engadget.com

 

Googleのアートに対する取り組みは、以前から情熱的である。Googleストリートビューで世界中の美術館を周遊できるようにしたり、作品のアーカイブを見られるようにしたり、アート作品もまたGoogleを介してインターネットの世界に吸い込まれているように思える。また、彼らの提供するユーザーインタフェース自体も、メディアアートが参照されており、今やメディアアートで培われた技法はGoogleの手足のような役割になっているようにも思える。

 

例えば、イームズ夫妻の『パワーズ・オブ・テン』は、地上から垂直に空を越えて10の乗数ごとに離れていき、1億光年先のマクロな宇宙にまで視点が移動する。さらに反転して地上に寝ている人の人体から細胞を通過して、ミクロの原子核にまで到達して、両極の相似形を示す、当時の先端科学と技術の成果を結実させた映像作品である。メディアアートの古典としても参照される作品だが、その視覚体験の一部はGoogle Earthにおいて半ば実現されている。かつて『パワーズ・オブ・テン』が与えた衝撃は、Google Earthに慣れ親しんだ現在の人々にはそれほどないだろう。当然、Google Earthを作った人間も『パワーズ・オブ・テン』の視覚体験は十分に理解し取り入れたに違いない。

 


Powers of Ten (パワーズ・オブ・テン) 日本語字幕

 

近年では、流行りの人工知能(AI)の認識機能を利用して、フィードバッグを何重にもかけて悪夢ような画像を作り出せる、アルゴリズムを提供している。これはユーザー参加型でインタラクティブなメディアアートそのものだといってもよい。

 

wired.jp

 

このようなGoogleの一見役に立たないようなアートへの貪欲な関心は、何を意味しているのだろうか?Googleの登場によって、我々の行動パターンは検索が軸になり、思考活動もまた検索が軸になっている。さらに、知覚体験や美的体験のような感性にまでGoogleの技術が浸透していっているように思える。もはや世界を整理するというよりは、世界の拡張の段階に来ているといってもいかもしれない。

 

さて、アートに固執するのは、広告領域の拡大だけの関心ではないと思えるが、Googleは美術館のウォークスルーに飽き足らず、そのコンテンツである美術作品を高解像度に手早くとる専用のデバイスまで開発した。「Art Camera」と名付けられたそのカメラは、10億画素もの超高解像度画像を撮影できる上、30分程度で撮影が完了する。従来、高解像度で美術作品を撮影する仕事は、少なくとも半日仕事だったので、驚愕すべきスピードと質だといえるだろう。

 

特設サイトで確認できる画像は、一見、高解像度の画像を見るのと変わりはない。しかし、Google EarthやGoogle Mapのようにマウスホイールで画像に近づけていくと、本来粗くなる画像は、どんどん細かくなり、筆致のディテイルまではっきり見える。まるで人間が近づいて見る様子に似ている。

 

しかし、それは逆で「Art Camera」は、エリアを分割し、クローズアップ撮影を繰り返し、撮影された大量の写真を統合しているのだ。つまり、近寄って見ることを繰り返した絵を脳で統合させているようなものである。細部ありきの全体像なのだ。

 

おそらくここで難しいのは、マウスホイールでサイズを変えて(本来ならば物理的距離)見る際に、違和感なく画像を「粗く」見せる方法だろう。この辺の技術は、まさにGoogle Earthなどで培われた技術といっていいだろう。本来高解像度で巨大なサイズの画像をわざわざ粗く見せているのである。

 

ただしまだ難点はある。「Art Camera」は1つの角度からしか撮影されていない。人間は様々な角度から見るため、照明の角度も変わり、筆致の見え方も変わる。だから、「Art Camera」が撮影した超高解像度画像は、精度は高いが、あくまで固定された視点と、同じ照明による体験にしか過ぎないのである。つまりその優位性は同じ撮影条件下における細部にのみある。それは瞬間の集積体だといっていいかもしれない。

 

しかし、Googleのことなのでそのような課題も乗り越えてくるだろう。次は複数の視点や照明環境など、簡単に撮影条件を変えることのできるカメラを開発することは容易に予想できる。そうなったときにはVR技術と連携され、Google美術館には距離や空間が生まれるだろう。

 

「Art Camera」は、収蔵品のカタログ制作などを行う美術館に無償で貸し出しされるそうだが、将来的には印刷物の再現性はGoogle自身が提供する鑑賞空間には大きく劣るものになるだろう。本物と複製物との相互作用によって認知される、美術作品の鑑賞経験も大きく変容していくに違いない。

 

 参考文献

EAMES FILMS:チャールズ&レイ・イームズの映像世界 [DVD]

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