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デザインと著作権-TPP締結後の世界「東京オリンピックとデザインの行方(4)」三木学

www.itmedia.co.jp

東京五輪エンブレムの盗用問題から派生して、佐野研二郎氏がアートディレクション(デザインではない)を行ったサントリーのトートバックの盗用疑惑に発展している。30種類あったトートバックの8点がネット上の指摘を受け、取り下げており、すでに公式にも「トレース」という言い方で、第三者の盗用を認めた形だ。

 

 奇しくも今回、デザインと著作権が大きくクローズアップされるようになった。それはTPP締結後の世界を予見しているようにも思える。今回、東京五輪エンブレムという世界的に注目されるデザインであったため、類似性を指摘したのはリエージュ劇場のロゴを制作したベルギー在住のデザイナー本人であった。もしデザイナーが指摘しなければ、このような大事には発展しなかっただろう。

 

しかし、その影響もあり、佐野研二郎氏が制作した過去の作品に関しても、多くの第三者による盗用の指摘がネット上で行われるようになっている。それは疑惑や類似の粋を今までは出ていなかったが、サントリーのトートバックにおいて、ついに実際に盗用が行われたことが明らかになった。

 

デザイン事務所(会社)の社員が行ったデザインは、職務著作になり、法人に属するため、責任は法人にあたるデザイン事務所と社長にあるのは明確である。とは言え、当人は社員の行った著作権侵害の実態を知らなかったと釈明している。実際、著作権教育は芸術大学でもデザイン事務所でも徹底されているわけではないので、このようなケースは全国で見られる可能性がある。また、実際のデザインを行わず、アートディレクション(デザイン演出・監督)の業務をしていたのに、個人名義でデザインと表記していたことは別の問題を抱えている。

 

この盗用が発覚したことにより、法的手段に訴える可能性のあるデザイナーもいるようだが、著作権侵害は日本の著作権法では、親告罪であり、侵害された著作権者本人が告訴することによって、民事訴訟刑事罰になるため、今回のような騒ぎになって知ることがなければ問題にならなかった可能性は高い。

 

著作権者本人に気付かれてないケースは多いだろう。しかし、TPPにおいて、知財関連で焦点になっていることに、著作権法違反の非親告罪化があるのだ。つまり、侵害された本人ではなくても、検察や警察の公訴や、第三者の告発によって、罪に問うことができるのだ。これは、暗黙の了解で許諾されてきたコミックマーケット等での二次創作(著作権者に許諾を得ていない二次的著作物)などへの大きなダメージになるとして関係者は反対している。

 

www3.nhk.or.jp

 

もしTPPが締結され、著作権法非親告罪化すれば、今回のように多くの告発が行われ、罪を問われる可能性も出てくる。デザインの場合、第三者の写真やイラストを使う場合でも、ヒントにする場合でも、著作権法に違反してないかもっとシビアに検証しなければならなくなるだろう。

 

しかし、創作物というのは、相互に影響を受けて生まれることは誰しも認めるところだろうし、法改正や告発の多発によって過度に萎縮してしまっては長い目で見れば大きな損失になる。著作者の創作物を尊重するのは大前提として、創作物の相互の影響をどのような形なら認めていくのか、社会的な議論が必要な段階に来ているのかもしれない。